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文章にしてみると、何ともみっともない。書きながら思わず口角が上がっていた。
ところが演技として見ると、この迫力たるや凄まじいのだ。本当にこの文章のように叫んでいるのに、ギャグと感じさせない。
高校演劇で結果を上げることが出来なかった私の最大の失敗は、演者と観客との溝を埋められなかったことだろう。観客を完全に物語に引き込むことが出来なかった。
彼の演技は、誇張されたものながらも、わざとらしさをまるで感じさせなかった。本当にこんな人間がいるようだ。彼の演技は、現実とフィクションの狭間を上手に行き来している。
私は、その高い演技力に魅了されていた。そして無意識のうちに、『世にも奇妙な物語』に出演していた彼の作品を全て見返した。
その数、計10本。ご長寿番組とはいえ、ランダムに俳優が選ばれている本作の中では、異常な出演回数だ。それに、全てが悪役というわけでは当然ない。怪しく不気味な役から、不器用でなよなよした役まで、幅広く演じられていた。
狂ったように同じ作品を見返す私に、両親は怪訝な表情をして言った。
「この俳優、好きなの?」
そう言われるのも無理はない。高校生に毛が生えた程度、もうすぐ女子大生になろうという人間が好きになるにしては、あまりにも年が離れすぎだ。
私も自分の気持ちを妙に感じながらも、自然と彼を追っていた。
私が、俳優・佐野史郎氏と出会ったのは、18歳の春のことである。
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