<元カレ>

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「さっき言った通り、凌太が留学してすぐにお母様に呼び出されて、学生と社会人では違うと今までは学生の遊びとして私と付き合うことに目を瞑っていたけど、これからは家格の合う許嫁との間が大切になるから、そろそろ身をひきなさい、許嫁はすでに高校生の時には決まっていたと言われて、紙袋に入ったお金を渡されたの。フィアンセがいながら私と付き合っていたことに愕然としたし、お金で事を済ませようとするあなたの親に憤慨したし、甲斐商事の系列会社に勤めている父について話を出してきた時には甲斐家の汚さにうんざりした。だから、紙袋をひっくり返してテーブルにぶちまけて席を立った。だから、お金がいくらかなんて知らない」 凌太は私の話を聞きながら口元を押さえた。 「すまない」 「別に、家格が合わないんだから仕方がないし、確かに大きな会社だから、結婚にも利害が関わってくるのかもと思ったけど、関係を終わらせるために海外に行ってその間に別れ話を母親にさせる凌太を信用できないって思った」 「俺は、母が瞳に別れてほしいと言ったらあっさり500万円を提示してきてそれを支払った。って言われて、確かにあの頃俺は忙しく、瞳から連絡がないことに気づいた時はすでに連絡がつかなくなっていた。カリキュラムを終えて帰国した時、瞳の実家に行ったが門前払いだった。その時に、瞳のお父さんに金でかたがついてるだろうって言われて、やっぱり500万で話がついていたんだって確信したんだ」 「ん?父さんが何だって?」 「金でカタがついてるって」 「知らないわよ」 「え?」 思わず二人で顔を見合わせた。 「ちょっとまって」 夜の11時をまわっているが、とにかく確認したい。 父親の携帯をコールする。 数回のコールで「どうした?」と言う声が聞こえてきた。 「ねえ、父さん正直に答えて」 『こんな夜に電話してきて何だ?』 「甲斐の家から500万円を受け取ったって本当」 『ああ、アレか。そんなこともあったな』 私は凌太に向かって頷いてからスピーカーに切り替えて話を続ける。 「私は聞いてないよ」 『言っても、お前が傷つくだろ』 「もらった方が傷つくよ。私はあの人にお金を渡されたけどその場で返したんだよ」 『だから、ここにやってきてお前が甲斐の家にはふさわしくないだの、系列会社に勤めているだけの家と甲斐商事の創業者一族とは釣り合わないだの、大体においてたまたま系列会社に勤めていただけでコネで入社した訳でもないのに偉そうなことを言われ、さらに大学までは息子に好きなだけ遊ばせていただけだなんて瞳をバカにするから追い返そうとしたら、手切金を上乗せさせたいから言うことを聞かないのかなんていいやがるから、金を受け取って金輪際付き合うことは無いって言って帰ってもらったが、そんなことをお前に言いたく無かった。あのバカ息子とその親バカ、今思い出しても腹が立つ』 凌太もショックだったのか両手で頭を抱えた。 『一年後にあのバカ息子がノコノコやってきやがって、瞳に会わせろなんてふざけた事を言いやがるから金で解決したことだろうって言ってやった』 凌太はさらに深く頭を抱えている。 「ちなみに、そのお金ってどうしたの」 『胸糞悪いから全額仮想通貨を買って放置してある。そうすりゃ、暴落して減ったとしてもむしろ清々するからな』 なんか、その答えがおかしくて笑ってしまった。 「ありがとうお父さん、それだけだから。お休み」 と言って通話を切った。 正人のことはまた今度話そう。 「ごめん」 凌太はショックが大き過ぎたのか、先ほどまでの堂々とした態度がどこかへ行ってしまっている。 「ずっと、瞳に捨てられたと思っていた。悔しくて仕事に打ち込んで忘れようとしていた。もちろん、許嫁なんていないというか、多分それは母親が勝手に言っているだけだ。瞳も瞳の両親まで傷つけてしまって申し訳なかった」 頭を下げる凌太を見て、心がチクチクと痛んだ。 あんな終わり方だったから、裏切られた悔しさと悲しみの中にまだ、情が残っていたみたいだ。 だって、凌太と直接何かあって別れた訳じゃないんだもの。 「母は親父とは政略結婚だったし親父を見下していたから、余計にそんなことを言っているんだ。親父は家格だとかそんなもんは何とも思ってない」 今までの心の隅に凝り固まっていたものが溶けていくようだった。 「凌太は凌太だったんだ」 「そりゃあ俺は俺だよ。まだ、瞳を好きな俺のままだ」 揺れそうになる。
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