<決着>

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<瞳> ヌマタ?誰だろう? スケジュールを一応確認する。 特にこの後は来客もないし、その先も確認するがヌマタと言う名前はないし、ヌマタという名前に記憶も無い。 ただ、私を指名で尋ねてくるのだから向こうは私を知っているんだろう。 エレベーターで一階に降り受付に向かうと和装の女性が立っていた。 和装? 私に直接、商談が来るとは思えないとなると 凌太案件かもしれない。 一度大きく深呼吸をしてヌマタさんの元に歩いて行った。 ヌマタさんは私の姿を確認すると一礼をしたので、向こうは私の顔を知っていると言うことかもしれないが私は彼女を全く知らない。 「ヌマタ様ですか?」 「ヌマタマコと申します」 和装で真っ直ぐこちらを向いて挨拶をする姿は堂々として迫力があるが、もし凌太案件だとしたら会社に乗り込んでくるとか非常識だ。 「ここを出たところにカフェがありますのでいいですか?」 一応、お伺いの体はとるが、強制執行である事に気づいてもらう為、真っ直ぐ前を向いて大股で歩いて出口に向かった。 ドアのガラスに映るヌマタマコは和装の為、チョコチョコと歩いてくるが姿勢がスッとして綺麗だ。 カウンターで一応、何を飲むのか確認したら「自分で買いますので結構です」と言われたので、自分のラテだけ購入して1番奥の角の席に座り、つい癖になりつつあるボイスレコーダーのスイッチを入れた。 ヌマタマコがドリンクを持って目の前に座った事を確認して「初めてお会いすると思うのですが」と言うと 「お話は色々と伺ってますが、お会いするのは初めてです」という言葉が返ってきた。 和装だと背筋が伸びて座る姿も綺麗だが、和装=茶屋的なイメージがあるのでちょっと違和感がある。 「それでどのようなご用件でしょうか?」 「甲斐凌太さんのことで伺いました」 ビンゴー! 「お話の前に少し失礼します」と言って里中くんに、少し外出しますと伝え電話を切った。 「それでどの様な話でしょう?仕事中ですのでプライベートな話で長く席を空けるわけにはいかないので」 非常識よと暗に訴えてみたが 「奥山さんが聞き分けのある方であればすぐに済みます」 なんかカチンとくる 「ところで私はヌマタさんの名前を受付から聞いただけなのですが?」 「失礼しました。わたくし沼田真子ともうします。父は沼田喜左衛門商店を営んでおり、凌太さんの婚約者です」 凌太さん?(怒) 婚約者?(怒) ナニソレ?聞いてないけど? 流石に一瞬怯んでしまったことでヌマタさんは何か勝ち誇ったように微笑んでいる。 「凌太さんと奥山さんが深い仲だという事はわかっておりますが、わたくしたちの結婚が締結するまでは別れて頂きたいの。結婚後しばらくしてから愛人としてよりを戻されても結構です。あくまでも、甲斐と沼田の政略的なものになりますから。ただ、今は我慢していただきたくて伺いました」 言っている事がイマイチ理解できずに固まっていると「もちろんタダでとはいいません」と言って見覚えのある動きをした。 目の前に封筒が置かれているがたぶんアレだと思うが一応、チラリと封筒を見てから「コレは?」と手のひらを上に向けて茶封筒を指し示す。 「手切れ金とでも思って下さい」 あの時と同じだ。 凌太の母親が送り込んできた? 「凌太からは何も聞いていないんだけど?」 「これは家同士のつながりですから」 「ヌマタキチエモン商店とはどのような事をされているんでしょう?」 ムッとした表情のヌマタさんは「文政元年から続く老舗のお茶問屋です」と少しバカにしたような表情で言い切ったが、私が勉強不足なのかよくわからない。 しかも、老舗の令嬢と政略結婚。 それって、凌太の両親のことじゃない。 何となくイラついたので、目の前でググってみるが、老舗のお茶屋です!くらいの情報しか得られなかった。 てか、コノヒト私と凌太が深い仲とか言ってたけど今回はまだ深い仲じゃないし、どこ情報?愛人としてヨリを戻すって、コレって丸々凌太の両親の話じゃない? 「凌太とは政略結婚になるという事ですよね?彼は納得してるんですか?」 「ええ、もちろんです。凌太さんにとって甲斐商事は何よりも大切なもので、老舗の看板が増えればより箔がつきます」 でもこの構図って・・・ 老舗の倉片呉服店を助けるために凌太の父親が政略結婚したのよね。 手元の情報だけで調べてみないと詳しくはわからないけど、沼田吉右衛門商店が倉片呉服店と同じような位置付けだとしたら 「甲斐商事のパラサイト」 思わず声に出してしまった言葉に沼田真子が反応した。 「失礼な。あなたこそ凌太さんのパラサイトでしょ」 「私と凌太は対等です。でも、甲斐商事と沼田吉右衛門商店は対等では無いんじゃないんですか?そもそも、仕事中に私的な話をアポイントも取らずに押しかけてくるようなあなたは沼田吉右衛門商店でどの様な仕事の仕方をしてるんですか?」 単純に老舗での仕事の仕方が気になったし、私を凌太のパラサイトとかかなりムカついた。 「わたくしが社交の場にでることで人脈を広げております。この度の甲斐とのつながりもわたくしの働きの一つです」 「社交をするだけで会社を盛り上げていると?私の勉強不足かもしれませんが、沼田吉右衛門商店を今初めて知りました。ホームページを見た限りでは、お茶を売ってるという程度しかわかりませんし、社交とおっしゃいましたが甲斐商事の箔というよりも、甲斐商事の庇護を受けるという感じしかうけられません」 それまですまし顔で話をしていた沼田真子の表情が険しくそして赤く染まっていた。 「あなたに何がわかるの。老舗を背負うということがどれほどのことか、これを持ってさっさと消えてください」 そう言って目の前の封筒を私に向けて押し付けてくる。 封筒を手に取って中を見ると帯付きの一万円札が二束。 凌太の母親のレプリカ、それも劣化版。 私が封筒を手に持つとたちまち片方の口角だけが上がり人を見下すような表情になる。 酷く醜悪な顔だ。 「もう一度確認します。凌太は政略結婚を承諾しているんですか?」 醜い笑顔で沼田真子が 「凌太さんにとって甲斐商事が大切なの、そのためなら政略結婚も厭わないし、わたくしも同じ考えです。それがトップ同士の考え方、奥山さんが離婚をして寂しいからと凌太さんにすがっているようですがそれももうやめていただきたいの。凌太さんの為にも」 ああ、これは
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