<決着>

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「嘘ですよね」 「え?」 沼田真子の表情がまた変わる。 本当にそう思っているんだろうか? 「まずはこのお金はお返しします。ちなみに、昔凌太の母親からは500万円を渡されましたがその場で返しました。その後の事はここでは必要ないので言いませんが、あなたは凌太の母親の劣化版のレプリカのよう」 「なっ」 「そして、凌太が大切なのは愛情のある家庭です。政略結婚の末に生まれて苦しんできた彼は政略結婚を望んでいないんですよ。そんなこともわからない様なあなたを凌太が認めるわけが無いし妥協をしない」 あの頃はきちんと向き合わなかったからわからなかったこと。 だから、母親の嘘を信じてしまった。 「でも、凌太さんのお母様に選ばれたのはわたくしです」 「でも、凌太はあたなを選んでいない。話はここまでです。私はコレから仕事にもどりますので、沼田吉右衛門商店が倉片呉服店の様に経営が苦しくて甲斐に縋りたいのなら、私にこんなものを渡さずにコレを元手に投資をするとか、寄生などせず自分がどうするべきか考えたらいかかでしょう。ちなみに父は随分と儲かったみたいですよ。それから、この事は凌太に話をします」 父の仮想通貨の話は伝わらないだろうけど、嫌味の一つくらいは言ってやりたい。 「それでは」と、席を立った時沼田真子が「話が違う」と呟いた様に思えた。 どんな話? てか、離婚の話とかどうして知ってんの? モヤモヤするけど、とりあえずは仕事に戻る。 戻ったけど、モヤモヤとイライラで仕事の効率が下がり結局は残業となった。 明日は凌太と出かけるのに、次から次に問題が起こる。 家に帰ると、父も帰ってきたばかりだと言って夕食を食べるところだったので一緒に夕食を食べた。 実家に帰ってきてから楽過ぎる。 でも凌太は両親と話をしながら食事をする、そんなささやかな幸せを知らない。 そう思うと、沼田真子の自分が正しいと疑わなかったあの態度が 無性に腹が立った。 しかも、凌太さんとか言っちゃってるし。 前は一人で考えて一人で答えを出した。 でも今回は [今日の夕方、凌太の婚約者という沼田真子さんが会社に来ました] とラインでメッセージを送った。 少しして凌太から電話が来た。 『沼田さんが瞳に会いに行ったのか?断じて関係は無いから、おふくろが勝手にすすめていて何度か話をしただけだ』 必死に説明をする凌太に「大丈夫だよ」と言ってから沼田真子との話を説明した。 沼田吉右衛門商店は思った通り第二の倉片呉服店だった。 沼田真子の「話が違う」と言う呟きが気になっていたからそれも凌太に伝えると「あとは俺に任せてくれ」と言っていたので任せる事にした。 そして明日の待ち合わせ場所を決めて電話を切った。 明日、着る服を考えていたらラインのお知らせが入った。 里子だとおもったら、Ryoから山茶花の写真が送られてきた。 山茶花の写真を見ながらRyoの事を思い出す。 もともとグイグイ来る人だったけど、凌太との関係を知ってしまうと何となく距離を取りたいし、松本ふみ子のことも引っかかってしまう。 [こんばんわ] かといって無視もできない。 [こんばんは。山茶花、綺麗ですね] あたりさわりのない返事をする。 [あれから大丈夫すか?] 大丈夫ってなんだろう?一瞬、沼田真子のことかと思ってドキッとしたが松本ふみ子のことだろう。 [この週末にご両親が松本ふみ子さんに誓約書を持って行くそうなので来週にはおわりそうです] [奥山さんは優しいですね。許すんですね] 許すと言われて、別に許したわけじゃないけどそう見えるのかもしれない。でも、自分と向き合うことの方が松本ふみ子にとってある意味辛い作業かもしれないと思った。 [優しいわけじゃないですが、反省して二度と目の前に現れなければいいかなとおもいます] [社会的に抹殺したい時は言ってくださいw] wが付いていたとしてもなんとなく嫌な気分になった。 [なんか物騒ですねw] 私もwをつけて返してみた。 [冗談です。他に何かありましたか?] [何もないです] [そうですか、何かあったら相談にのりますね] [ありがとうございます。おやすみなさい] [おやすみなさい]という返信を見てからスマホを置いてベッドに仰向けになる。 他に何かあるって何? なんだかどんどん疑わしく見えてしまう。 単純に心配してくれているんだろうけど一度ついた疑念の炎はなかなか消えてくれない。
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