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<瞳>
待ち合わせ場所に現れた凌太を見てダメだと思った。
仕事が忙しいのかもしれない、その合間の時間を私に当ててくれるのは嬉しいけど、無理をしてまで合わせる必要はないんだから。
休日に出かける事にこだわっているのだとしたら、それはきっとRyoさんの存在なのかもしれない。
凌太の父親は土日はRyoの家に行って凌太と過ごすことはなかったと言っていたから。
「ねぇ、私たちにはこの先たくさんの時間が有るんだよね?」
ハンドルの上に手を置いて、不思議そうに振り返る凌太の頬を手のひらで撫でる。
「とても疲れた顔をしてる。出かけることはこの先いくらでも出来るけど、今、無理をして体を崩したらそれも出来なくなるでしょ。かと言って私の家だと気を使うだろうし、マンションに戻る前に少し仮眠をとったほうがいいと思う」
凌太は優しく微笑んで「そうだな」と呟いてから車を発進させた。
車のシートを倒して熟睡している凌太の横顔を見る。
どこに行くのかと思ったら、何度か二人で来た自然公園の駐車場に入りシートを倒して少し寝ると言って目をつむったと思ったらすぐに健やかな寝息を立てはじめた。
窓からは紅葉にはまだ早い木々が見える。
もう少し経ったら紅葉を二人で見よう。
冬には雪景色、春には桜、これからたくさんの季節を二人で見ていこう。
ひとみ
「瞳」
名前を呼ばれて私も寝ていた事に気がついた。
凌太の顔色もよくなっていて安心する。
二人で随分と寝ていたみたいで日が傾きかけている。
「どんだけ寝てたのかしら」
「だな、でもすごく頭がスッキリしてるが一日が終わりそうだ。今日はもう瞳を送って帰るよ」
「一人で運転させる訳ないでしょ。とりあえず凌太のマンションまでついて行くから、そのあとは電車で帰る」
「それじゃあ、心配だから送って帰るか、マンションで少し休んでから送っていく」
「じゃあマンションに泊まって翌朝送って」
「その案に賛成だ」
二人で顔を見合わせ笑ってから慣れた道を走り出した。
途中でスーパーに寄って夕食を作る為の食材を購入して部屋に戻ると二人で準備を始める。
処理済みの白身魚の切り身に塩胡椒で下味をつけてから小麦粉をまぶしてバターで焼く。
トマトも輪切りにしてバターで軽く焼いてほうれん草の塩茹でとともにつけ合わせる。
あとは玉ねぎとベーコンのスープを作ると完成だ。
「明日、本社で沼田真子と会う予定だ。と、言っても俺が与えた課題をこなせたらだが」
そう言ってから、薄切りのバケットを口に運ぶ。
「課題?」
「そう。その後は四人で話をするつもりだ。瞳は亮二と仕事の関係があると言っていたがプライベートでは何も無いんだろ?」
別に仲がいいとかじゃないけど、ラインのやり取りをしていることが後でわかるときっと嫌な気分になる。
私が凌太だったら嫌だと思う。
「ほぼ毎晩のようにラインが来るの。別に何かがある訳じゃないし無視するのも変だから返事をしてる」
「そうか、わかった」
「気のせいかもしれないんだけど」
綺麗な所作でムニエルを口に運ぶ凌太を見ながら
「松本ふみ子のことや沼田真子のことを知ってる気がするの」
「俺もそう思うというか、確信してる」
やっぱりそうなんだ。
だとしたら、一体どういうつもりなんだろう。Ryoは何をしたいんだろう。
夜は凌太のベッドでただ腕の中で眠った。
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