<決着>

14/17
前へ
/137ページ
次へ
久しぶりに実家の前に来るとシャッターが自動的に上がっていく。 親父に連絡をしていたからきっと親父が操作しているんだろう。 そのまま門をぬけ駐車スペースに車を停めると玄関にはフミさんが待っていてくれた。 「お久しぶりです凌坊ちゃん」と言って微笑んでいる。 「お久しぶりです、フミさんには色々と気遣ってもらってすみません」 「旦那様がリビングでお待ちです」 「おふくろと亮二はいるんですよね?」 「それぞれのお部屋にいらっしゃるかと思います」 今日全員がそろうならそれでいい。 フミさんに二人にもリビングに来てもらうようにお願いをして親父が待つリビングに向かった。 「凌太、何かあったのか?」 あれほど家に帰ってこいとか言っておいて、このセリフとは笑わせる。 「何かないとこの家には来てはいけないんですか?」 「すまん、そんなつもりはないんだ。これからもちょくちょく寄ってくれ。日曜日はゴルフがなければ大体は家にいるから」 「驚いた。俺の子供の頃は土日は忙しくて家にいたことが無いのに今は家にいるんですね。あ、亮二が家にいるからですか」 「それは」親父が何かを話そうとしたときおふくろが「凌太、さきほど真子さんから連絡が来たけどどういうこと!」と言いながら階段を降りてくる。 親父はマコ?と不思議そうな表情をしているから、相変わらず夫婦の会話は皆無なんだろう。 俺は黙ってソファに座ると向かいに親父が座り、俺の隣にはおふくろが座った。 「沼田さんも政略結婚はお断りだそうだ」と言うと親父が「政略結婚?」と眉をひそめた。 「どういうことだ?」 「おふくろが第二のおやじとおふくろを作ろうと画策していたみたいですよ」 「何を言ってるの。甲斐の血を少しでもいいものにする為に老舗のお嬢さんを見つけたのに」 「君はまだ、そんなことを言っているのか」 「俺には今、将来を考えている恋人がいる。だから、余計なことはしないでくれ」 「なっ、どこのお嬢さん。身元はきちんとしてるの」 「誰だい?その話をしに来たのか」 どうやら、瞳のことはおふくろは知らないようだ。 そうなると 「兄さん、先日ぶりです」とにこやかな仮面をかぶった亮二が階段を下りてきた。 沼田真子の暴走は完全に亮二の計画だ。 亮二が当然のように親父の隣に座ったところで、フミさんがお茶を持ってきてくれた。 フミさんが戻っていくのを確認して、亮二の顔を見る。 「瞳に絡むのは止めてくれないか亮二」 「瞳ですって」と声を荒げるおふくろとは対照的に亮二はアルカイックスマイルを浮かべ「たまたま仕事で一緒になっただけです」と嘯いた。 「瞳ってあの奥山とかいう生意気な女性?」 おふくろの話は一旦スルーをして、亮二に話しかける。 「松本家に太陽光パネルの営業に行ったあと松本ふみ子に直接会って瞳を排除すればいいと囁いたそうだな」 「営業?亮二が飛び込みの営業をしてるのか」という親父の今はどうでもいい話もスルーする。 「それから沼田真子にも”甲斐亮二”として会いに行って昔、おふくろがやったことを教えたようだな」 「甲斐亮二ですって」と声を上げるおふくろをスルーする。 「あれ~沼田さん、兄さんにしゃべっちゃったんだ。じゃあ、失敗したってことだ。おかしいと思ったんだ、沼田さんに連絡が付かないし、奥山さんは普通だし。松本さんも中途半端だったしね」 親父もおふくろも亮二を不思議なモノのように見ている。 「松本ふみ子の時は奥山さんが危険にさらされた。どいういうつもりだ?」 「大丈夫ですよ、僕が颯爽と出て行ってヒーローになるつもりだったんだから。まさか、兄さんが出てくると思わなかった」 「いったい何の話をしているんだ」と親父が俺と亮二の顔を交互に見ているから簡単に説明をした。 そしておふくろが金で瞳と俺を引き離したこと、今回同じような手口で沼田さんが金を持って瞳に会いに行ったことを話すと親父は「あなたはそうやって息子の幸せまで奪うのか」と声を荒げた。 「凌太の幸せを奪ったのはあなたでしょ。結婚してすぐに女を作ってって、結婚前から続いていたその女に子供を生ませて、その家に入り浸っていたんだから」 親父は明らかに動揺している。 「凌太には悪いことをしたと思っているが、それでも愛情はそそいだつもりだ」 「だったら」とおふくろは立ち上がって「だったら、何故凌太のDNA検査なんてしたのよ」 俺のDNA検査?どういうことだ? 「君が呉服店の番頭と仲が良かったからあの男の種じゃないかと思ったんだ」 「ふざけないで、あなたじゃあるまいし不貞なんてはたらくはずもないでしょ。初夜にたかえ~なんて言いながら私を抱くような最低人間のあなたとは違うのよ」 「え?」と俺 「あっ」と亮二の声が重なった。 「わたしが?」とまるで覚えのなさそうな顔で聞き返す親父に 「そんな屈辱を受けて我慢に我慢をしてきた。あなたを見下していないと私の心が壊れそうだった。それでも甲斐の妻として跡継ぎを生まなければならないとこらえていたのに、あなたはわたしを抱くたび “たかえ”と呼んでいたのよ。挙句の果てに、あなたの部屋で凌太とのDNA検査の報告書を見たとき、あなたには憎しみしかなかった。凌太は自分の腹を痛めて生んだ子だけど半分は最低人間のあなたの血が入っているかと思うと愛しきれなかった。しかも、高校生で女をとっかえひっかえこの家に連れ込んでそんな血が凌太に受け継がれたなんて悔しくてあなたを憎んでも憎んでも憎み切れなかった。挙句の果てに愛人に子供を生ませていたなんて」 おふくろが甲斐を見下していた理由が親父にあったことに驚きを隠せなかった。 ずっと尊敬していた親父が元凶であり、さらには俺のことを疑っていたんだ。 しばらく四人とも言葉が出ずにいたが、瞳とのことをどうして亮二が知っているのか気になった。 「亮二はどうして瞳のことを知ったんだ」 あーと間の抜けた返事をした後 「継母さんと話をしたくて部屋に行ったら留守だったから、ちょっといろいろ勝手に見せてもらった時に学生時代の頃の奥山さんの調査書が出てきて、勝手にみさせてもらったんだ。そこに金で解決みたいなことが書いてあったから、兄さん可愛そうだなって思ったんだよね」 「あなた、私の部屋を勝手に荒らしていたの」 「いや、ちょっと見ただけです。それで、今回アカギ食品から話をもらって担当者と食事をすることになったとき現れたのが奥山さんでびっくりした」 瞳を調査していたことも腹立たしいが、部屋の中を勝手にみる亮二の行動に気分が悪くなる。 自分が思っていたよりもこの家は問題が多いのかもしれない。 どちらにしても 「俺の今日の目的は、亮二にこれ以上、瞳に関わるなと言うこと、おふくろには二度と俺に干渉するなと言いに来た。まさか親父の下衆な下話が出るとは思わなかった」 「ねえ」とおふくろはまっすぐに親父を見て「この子も検査をしたの」と亮二を指さした。 親父は困った顔で苦笑いしながら「してないよ。だって、俺の子だってわかっているから」と答えるとおふくろの眉が鋭角に曲がる。 「凌太だけを検査するなんて不公平でしょ、この子もして頂戴。それくらいいいでしょ、さんざん最低なことをしてきたんだから」 すると親父よりも早く亮二が「いや、でも無駄になるから」とそれまでの不遜な態度が一変する。 そんな亮二の肩を親父はポンポンと叩いた。 「わかった、検査をするよ」 「キットを取り寄せとかじゃなくて、弁護士も交えて二人で病院へ行って頂戴。結果は弁護士を通してもらって四人で見ましょう。それくらいいいでしょあなた」 「わかったよ、そうしよう亮二」 亮二は横を向いて返事をしなかった。 「DNAどうのよりも、亮二もおふくろも今後、俺と瞳にちょっかいを出すのはやめてくれ」 そう言って俺は玄関に向けて歩き出すと、亮二もすぐに階段を上って行った。 親父とおふくろはなにか話をするのだろうか、だとしてもこれだけこじれてしまえば難しいだろう。事実として親父は長い間不倫をしていたのだから。 夜、瞳に亮二の事を伝えた。 瞳もなんとなく違和感を感じていたから、それほどの驚きはなかったようだ。 そして、DNA検査の話をした。 結果がどうであれ、その日にはずっと考えていたことを実行するつもりだ。 水曜日に親父と亮二と弁護士の三人でDNA検査を受けに行ったと親父から連絡が来た。 亮二は面倒くさがったが、俺を疑ってしまったことの罪滅ぼしとしてもキッチリとやるつもりだと言っていた。 いまさら、どうでもいいが「そうですか」と返事をしておいた。 瞳のところにはあれから亮二からの連絡は入らなくなったと言っていた。 あれで、まだ連絡をとるとしたら大物過ぎて太刀打ちできないかもしれない。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1240人が本棚に入れています
本棚に追加