<幕間>

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<幕間>

~亮二~ 子供の頃、夜にたまに来る男がいた。父親は毎日忙しく土日しか家に居なかった。 父はカッコよくて色々なものを買ってくれる。ゲームやDVDを買ってくれて母さんと話があるから呼ぶまで一人でいなさいと言われても苦ではなかった。 たまに夜しか来ない男は母さんをいつも泣かせていて母さんが死にたいとか言っているのを聞くのが辛かった。でも、その男が来た時の母さんは幸せそうだった。 中学に入ると何となくわかってくる。土日しか帰ってこない忙しい父の目を盗んで母は不倫をしていた。 そして、父が呼ぶまで一人でいろと言った意味、母が死にたいと言った意味がわかった。 母は本当に死にたいのではなく、死ぬという言葉が閨での言葉だと気がついた。 住民票の世帯主は母親で父の名前はなかったが、戸籍謄本には確かに父の名前が書いてあった。 母は父の愛人だと知った。 その愛人である母にも恋人がいた。 ふと疑問が湧いた。 僕は母にも父にも似ていない。 一重で目立たないこの顔は母の恋人によく似ていた。 複雑な気持ちを抱えながら過ごしていたある日、母はステージ4の胃がんだとわかった。 父は献身的に面倒を見てくれたが、恋人は全く寄り付かなくなった。 今になって思えば、父が土日以外にもいるため恋人のほうはうかつに近寄れなかったのかもしれない。 死の影が近づいた頃、病床で母が僕の本当の父親のことを話し出した。 母は甲斐さんを憎んでいた。 どんなにクズでも母は僕の本当の父親を愛していたが生活力がない為に甲斐さんを利用して、さらに僕を認知させて甲斐の財産の相続権を得ることで復讐をしたと言っていた。 だが、母は二人の男と寝ていた。 何を言って正当化しようがやっていることはクズだ。 クズの父親にクズの母親、そして騙されているのを知らない哀れな男。 母が亡くなるとその哀れな男に豪邸に連れて行かれた。 そこには他人の僕に父親をとられた惨めな“兄”がいて、ちょっと煽っただけで家を出て行った。 家族の愛はないが兄は僕が1番欲しい“血”を持っていた。 僕とは違って整った顔の兄は女関係が派手だったが、一人の女性と付き合い始めて落ち着いたようだった。 愛人を何年も囲うような男の子供だから貞操観念が欠如しているんだろうと思ったがその女性と付き合い始めて兄は変わった。 だから継母に男は庶民とくっつくと僕みたいな出来損ないになる、兄さんもそうなるかもねと言ったら付き合っていた女性を調べていた。 継母が出かけている時に部屋に忍び込んだら、その女性を興信所を使って調べていた。 その人は奥山瞳といった。 兄さんの留学中が別れさせるのにベストな時期だと言ったら、普段は僕を嫌い見下しているのにかんたんに誘導されて金でかたをつけたようだ。 戻ってきた兄さんは“また”大切なものを失ってかわいそうで見ていて楽しかった。 それでも会社は兄さんのものだし正当な甲斐の血をもっている。それ以外は取り上げたってバチは当たらない。 奥山瞳を失った兄さんはまた女性関係が派手になった。 その頃、お人好しの甲斐さんの部屋に忍び込んだら兄さんが子供の頃にDNA検査をした報告書を見つけた。 自分の本当の子供を疑って、自分の子供ではない似てもいない僕を息子だと信じている姿が最高に笑えた。 会社は母が働いてもないのに給与が払われていた太陽光エネルギーの部門に配属されたが、着実に出世していく兄さんとは逆に万年主任という座を手にいれた。 別に仕事がしたいわけじゃない、そこはいまだに定職にもついてないいつまでも役者の卵だと言っている実父に似ているのかもしれない。 好きな絵を描く時間さえあれば、住むところにも困らないし、時折実父が金の無心をしてくるが適当に小遣いを渡せばしばらくは大人しくなる。 食品メーカーからイラストの仕事が舞い込んだ時は本気で嬉しかった。 そしてその担当があの奥山瞳だった。 奥山瞳を手に入れて兄さんに紹介したらどうだろう、ワクワクする。 そう思ったのに、二人はよりを戻していた。 奥山瞳は僕の母親とは違って誘っても靡いてこない。 そんな時、兄さんのストーカーを見つけた。 ちょっと背中を押したら奥山瞳を襲ってくれたから僕が助けてハッピーエンドになるはずだったのに何故かそこに兄さんが現れて僕の計画は台無しになった。 継母の部屋を調べていたら沼田真子という女の釣書や写真があった。 継母と同じ没落“名家”で兄さんにすすめているらしかった。 だから、沼田真子に会いに行った。 会社と兄さんのために奥山瞳ではなくあなたがいい。兄さんは情があって奥山瞳を切れないだけで、金を積めば簡単に身を引く女だと言った。 傷ついた奥山瞳を手に入れるつもりだったのに、僕はやりすぎた。 兄さんを本気にさせてしまった。 なんと継母が甲斐さんがDNA検査をしたことを知っていた。 それで僕まで検査をすることになってしまった。 万が一、本当は甲斐の血が入っているかもしれないとの淡い思いは現実という名の元に崩れ去って長年騙して続けていたことが白日のものとになったのだ。 お人好しの甲斐さんは僕のために会社を作る気だったようで、それは甲斐さんのものになった。 僕は認知を取り消されて実父と二人で狭いアパートで暮らしていたある日、甲斐さんが僕を訪ねて来たが僕と実父が並んでいる姿を見て何も言わず去っていった。 ぼくと実父は目がそっくりだ。 奥山さんにはいろいろとひどいことをしたけど、スーパーに行ってチョコの付録としてついてくる僕のイラストが書かれたボックスをみると感謝の気持ちが湧いてくる。 奥山さんのような人と恋がしたいと思った。
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