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里子と駅で待ち合わせをしてマンションに行き鍵を使って入ると正人は玄関に走ってきた。
目の下にはクマが出来て寝ていないのかもしれないけど、もう、あんたなんかどうでもいい。
あんたより私の方が苦しかったんだから。
「第三者に立ち会ってもらうから」
「わかった」
もう、完全に借りてきた猫だ。
里子のスマホで録音してもらう。
「まずは出会ったきっかけ、どこの誰なのか、何をしている人なのか、会っていた頻度と性交の頻度、貢いだものなどを隠さず話して、わかった?」
頷いて肯定した。
「会社でパパ活をしている奴がいて、若い子とデートしてストレス発散するのは楽しいって」
「ストレス?私といてストレスがあったの?」
「違う、瞳には何も。ただ、同期が出世していくのに取り残されてそれがストレスだった。アプリで会う約束をして、みゅーちゃんと会った。食事をしながら俺の話を聞いてくれて、若くて美人じゃないけどそこそこ可愛くてバカで一緒にいると本当に楽しくて、舞い上がっていたんだとおもう。1時間5000円で食事やショッピングをした」
「それだけで5千円?」
私はお昼代の何百円を節約するために毎朝お弁当を作っているのに?
正人が頷く。
「3回目に会った時、ピアスが欲しいって言われてプラチナのピアスを買ってあげたらキスをしてくれて」
「金額は?」
「1万円とピアスが1万2千円です」
私には婚約指輪すら無かったのに?てか、2時間コース!?
「それで?体の関係は?」
「これはあくまでもパパ活だから、その大学生活を応援するために会っていただけなんだ。決して、そんな関係じゃない」
何があくまでパパ活よ!しゃあしゃあと嘘をつき始めた。
「私は、真面目で嘘がつけない正人が好きだった、だけどもう、そう思っていた正人はいないんだね」そう言いながら、裸の二人が俯瞰で自撮りしている写真を見せると正人は驚愕の表情をした。
「あっ、ごめん、ごめん、してました」
「初めてしたのはパパ活開始からいつ位から?」
「1ヶ月後です」
「ふうん、そういえば、こないだの高級レストランだけどワインとか飲んだの?」
額が膝につきそうなほど下を向いている。
「みゅーちゃんがシャンパンを飲みたいって言うから」
シャンパン・・・私は正人と結婚してから飲んでないけど
しかも「さっきからみゅーちゃん呼びがイラつくんだけど」
「ごめん、そのみゅじゃない美優ちゃんは」
みゅーちゃんも美優ちゃんもどっちもイライラするんだけど、コイツの頭の中って花盛り?
「エッチするときにお酒飲んだりしてた?」
まどろっこしいので話の途中で被せる。
「その、19歳だったから、それは・・・でも20歳になってから一度だけ?」
はいアウト!てか、なんで疑問形。てか、生々しい、気持ち悪い。
ダメだ。
「わかりました」
私の言葉に何を勘違いしているのか満面の笑みで、「許してくれる?もう絶対に浮気はしないしみゅ美優ちゃんとはちゃんと別れる」とのたまった。
「離婚一択です。ちなみに両親には話をしてあるので、明日には母さんが離婚届を取ってきてくれるから明後日の夜にサインしてくさい。一分一秒も夫婦でいたくない。じゃあ、今日はこれで」
そう言った途端、スライディング土下座で額をグリグリと床に擦り付ける。
「正人、もうね、どうしようもない状態になってるの」
「ごめん、本当にごめん、お金も返すしもう二度としないから、どうか離婚だけは」
「何を言ってももうダメだよ」
「そ言ういう所だよ」
ヘコヘコと謝っていた正人が急に大声で叫んだ。
「何?」
「瞳はいつだって正しいし、頭もいい、仕事もできてオレなんかよりもうんと年収が高い!こんなマンションに住んでいられるのも瞳のおかげだってわかってるけど、劣等感に苛まれるんだよ」
床を手のひらで叩いている姿は、スーパーのお菓子コーナーで駄々を捏ねている子供のように見えて、かける言葉が見つからず黙って正人を見下ろしている。
「美優ちゃんはバカでオレなんかでも優位に立つ事ができて、気分が良かったんだ」
安心感があって優しい正人が好きだった。
でも、それなら
「どうして結婚したの?」
いつのまにか正人の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。
「好きだから、頭が良くて、仕事をしている姿がカッコよくて美人なのに公正なところに惹かれた、だけどそれが凄くオレをミジメにさせる」
「だからおバカちゃんと不倫をしていい理由にならないし、私を傷つけていいことにならない」
「ごめん、本当にごめん、傷つけてごめん、弱くてごめん、だけどいつだって今だって瞳を愛してる。許さなくてもいいから離婚はしたくない。これから頑張るから」
床におでこを擦り付けながら謝罪の言葉を吐き続ける。
「裏切られた私がどうして苦しみながら結婚生活を続けないといけないの?もう無理だから」
正人の後頭部に向かってそう言うと里子と二人でマンションを出た。
「不倫なんてつまらないね、里子も付き合ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
その夜、お義母さんから電話が来た。正人が報告したんだろう。
私からは言いにくかったから助かったと思いきや
『瞳さん離婚したいってどういうこと?』
「正人から理由を聞いていないですか?」
『理由を聞いたら口篭っていたからきっと年収のことでしょ、いくら瞳さんの方が稼いでいるからって横暴ね』
はぁ
ため息が出る。結局正人は中途半端な説明しかしていないようだ。
「年収のことは初めからわかっていたことです。だから子供ができた時に困らないよう二人で貯蓄をしていました。その預金を正人が愛人に貢いでいたことが許せないんです」
しばらくの沈黙の後
『愛人?』
そうよね、正人が浮気とか思わないよね
『まさか正人がそんなことをする訳ないでしょ』
「たくさんの証拠写真があります」
『そんな、たかが一回くらい』
「もう1年間も続いてます」
『・・・』
義母は言葉が出ない。
「それに相手が悪いです、もう考えると言う段階はではないので離婚しか選択肢はありません。お世話になりました」
『えっ、なっ』
これ以上話をしても仕方がないので通話を切った。
月曜日、凌太の仕事の速さに感動した。
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