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「今日、正人はお休みだよね」
「ああ、ただ夕方にチーフと打ち合わせを兼ねて食事をする事になったから夕食はいらない」
「今までそんなことしてたっけ?」
「えっと、売上が良くなくてこれからは話し合いをする事になったんだ」
焦った、大丈夫。怪しまれていない。
「ご苦労様です」
瞳はそう言って微笑むと食事の片付けを始めた。
その姿を見て少しだけ心苦しい気持ちもあったが、ちょっと会って話をするだけ。
ストレスを発散するだけだ。
瞳が出勤してから服をどうするかクローゼットから取り出して並べる。
あまり硬くなりすぎてもおかしいし、スマホで検索しながら考えてスラックスとシャツにジャケットを羽織った。
結局、いつもの出勤の姿にネクタイを外しただけだ。
待ち合わせのカフェに30分以上も早く着いてしまいコーヒーを飲みながらスマホで漫画を読み始めたが落ち着かない。
本当にμは来るんだろうか?
揶揄われていたら・・・
窓のを外をキョロキョロと確認する。
男がこちらを見ている気がする。
ノコノコと現れたオレをどこかで笑って見ているんじゃ無いだろうか?
やっぱり帰ろうかと思った時
「正さん?」
声をかけられ振り返るとインスタの自撮りで見た女性が立っていた。
やはりインスタ写真は盛っていたようで、第一印象としては“普通”だ。
かなり色々なものをつけて化粧をしているようでそこが可愛く感じた。
「μさん?」
「正さん写真のまんまだからすぐにわかりました。ご飯食べに行きません?」
いきなり食事なんだ。
「あっ、その前に今日は顔合わせなのでお知らせ通りを前金でお願いします」
そう言えば、顔合わせ3000円、それ以降は食事や買い物1時間5000円って書いてあった。
慌てて財布を取り出して紙幣3枚を渡すとμは軽く確認してブランドの財布にしまった。
食事をするところは詳しくないと伝えると「じゃあ私がおすすめするね」と言って気が引けるようなオシャレなイタリアンレストランに連れて行かれてμはパスタはわかるけど、よく知らない名前の料理がをいくつか注文していた。
「えっとぉ、みゆは短大一年です。学生証を忘れちゃったんですけど提示は必要ですよね?」
決して美人ではないが可愛く見せようとして小首を傾げて甘えた表情と声が可愛いらしく感じる。
「いや、大丈夫です」
「卒業した後、何をしたいのかわからなくってぇ、ゆっくり探したいとおもっているんですぅ。だからぁ、支援してもらえると嬉しいですぅ。難しいことわかんないけど、話とか聞き上手なのでぇ正さんのお話聞きますよぉ」
膝をついて食べたり食べ方も汚い、一体どんな短大に行っているだろう、テストに名前を書けばOKな感じなんだろうか?
瞳とは何もかも正反対で、ある意味ホッとする。
「短大は何を勉強してるの」
「文学?」
その答えについ吹き出してしまう。
「疑問形なんだ」
「あんまり勉強とか得意じゃなくて」
そうなんだろうな、でもホント落ち着く。
「もし良かったら、これからも会えるだろうか?」
「嬉しい、正だからたーくん?」
「あっ本当は正人(まさと)なんだ」
「じゃあまーくんって呼ぶね。みゆのことはみゅーって呼んで」
「じゃあみゅーちゃんてことで」
そんな感じで始まった。
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