正人side<深みにハマる>

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今日は早番で夜にみゅーちゃんと会う。 お昼にお弁当を食べながらみゅーちゃんとメッセージのやり取りをする。 帰る時に甘いタイプのカクテル缶をいくつか購入していこう。 今日は楽しく過ごして、次の約束はせずにあとは連絡先をブロックして距離を置いていけばいい。 随分と支援してあげたんだから・・・ 待ち合わせのカフェに行くとみゅーちゃんが先に来ていた。 二人で連れ立っていつものホテルに行くとバッグからカクテル缶を取り出してテーブルに並べると、みゅーちゃんがそのうちの一本を手に取り「これ、気になっていたヤツ」と言ってプルトップを開け、オレは缶ビールのプルトップを開けるとお互いアルミ缶を重ねて乾杯をした。 今日のみゅーちゃんはいつにも増して積極的で関係を終わらせることが惜しくなった。 「結婚したら毎日できるね」 「そうだね、少し時間がかかるけど待っててよ」 こんな風にいなしながら会う回数を減らしていくのもいいかもしれない。 「大丈夫だよ」 そう言ったみゅーちゃんの言葉に、はははと軽く笑い飛ばして帰宅をすると瞳がいつもの様に「おかえり」と迎えてくれる。 やっぱり奥さんは瞳しかいない。 シャワーを浴びて情事のあとを洗い流して、冷蔵庫からホテルで飲んだビールを上書きするように冷えたビールを取り出すとごくごくと一気に飲んでいると瞳が一通の手紙を持ってきた。 「ねぇ、正人。朝、集合ポストをのぞいたらへんな手紙が入っていたんだけど」 そう言われて受け取った手紙の表面に書いてある言葉に凍りついた。 正人さんの奥様へ どっどっどっ 心臓が暴走する。 脇や頭皮から汗がふきだす。 汗が額を伝う。 みゅーちゃんが言った「大丈夫だよ」という言葉を思い出した。 手紙を見る。 正人さんと別れてください 何で・・・ 金さえ払えば気軽に会えてヤレる子だった筈、確かに結婚とか言い出して適当にかわしていたけどこれは・・・ないだろう 「これなに?心当たりは?」 明らかに疑っている、というよりも心当たりはありすぎる。 でも、ここで認めるわけにはいかない。 咄嗟に自分でもありえない言い訳をして手紙を破き丸めてゴミ箱に捨てた。 見たくない 忘れたい もうみゅーちゃんとは会わない 怖い 「でも、おかしいでしょ?正人、美優って人と浮気してるの?」 浮気じゃない みゅーちゃんは単なる遊び だから 「するわけ無いだろう。疑ってんの?」 そうだよ、金でカタがつくのは浮気じゃない。 それでも瞳はオレを疑う言葉を掛ける。 聞きたくない だから とりあえず出てくる言葉をそのまま吐き続けてベッドルームに逃げ出した。 ベッドの中に入り込むと頭からスッポリと布団を被る。 サイドテーブルに置いたスマホがブルッと鳴って慌ててベッドの中に入れるとメッセージを確認する。 【まーくん離婚できそう?】 何を言ってるんだ? こんな事、バレたら大変なことになるってわからないのか? 聞き上手で床上手でちょっとおバカで可愛いと思っていたけど、単なる地雷バカだったのか? だって、プレゼントも金も渡してるんだから 【なんでこんな事するんだ?】 【まーくんと結婚したいから】 返事を打ち込もうとした時に瞳がベッドルームに入ってきたから慌ててスマホを体の下に隠すが、クローゼットを開けてからそのまま出て行った。 どうしよう、みゅーちゃんをなんとか大人しくさせないと、マズい。 【こういうのは順序というのがあるんだ、ちょっと待っていて】 【でも大丈夫】 ヤバい この“大丈夫”はきっとヤバいやつだ 隣に瞳がいなくてよかった、心臓の音を聞かれてしまうかもしれなかった。 【今度、話をしよう】 そう返事をして終わらせようとしたが、大量の好きだとかハートだとかのスタンプが送られてきて正直、もうやめてくれと思った。 そっとリビングを見ると、瞳はソファで寝ていていた。 ふと、あの手紙を回収した方がいい気がしてゴミ箱の中を探したが見当たらない、もしかすると瞳が持っているのかもしれないと瞳のバッグの中を見たがそこにも見当たらなかった。 これ以上探したりすると瞳が起きてしまう、そうなると言い訳が難しいから諦めてベッドに戻った。
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