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「正人、朝」
いつもと違い神経が眠っていなかったのかその一言で目が覚めた。
そうだ、先制するのもいいかもしれない。
「昨日さ、感じ悪くない」
と、言って瞳をみるとすでに出かける支度をしていた。
え?
今日は早いとか聞いてないとか考えていたら
「何が?今日は飲み会があるから。正人は好きにして」
え?え?
昨夜は何も言ってなかった、ってそんな雰囲気じゃなかったけど。
やましい気持ちがある為か“正人は好きにして”という言葉に引っかかってしまう。
ベッドルームから出ていく瞳を追いかけるとそのまま玄関に行き靴を履き始めた。
マズい、絶対に怒ってる。
「瞳、もう一度ちゃんと話をしよう」
瞳の背中にそう伝えたが返事が返ってくることはなかった。
みゅーちゃんからのメッセージはどんどん増殖していく。
怖くてみることが出来ず、ずっと放置している。
ダイニングに行くとおかずのプレートのみでトーストもコーヒーも無い。
洗濯も干していないし、なによりもお弁当が無かった。
どこまで知っているんだろう。
一年前に戻りたい。
みゅーちゃんと出会う前に、関係を持つ前に。
とりあえずラインに
【ごめん、ちゃんと話そう】
とメッセージを送ったが直ぐに既読がついてそれきりだった。
仕事中は集中出来ず、ずっと動悸がしたままだ。
菓子パンをコーヒーで流し込んでいるとチーフに「弁当じゃないって珍しいね、奥さん体調でも悪いの?」としっかりツッコまれ「仕事が忙しいみたいで」と返したが、そもそもあんたがパパ活なんてオレに教えなければこんなことにならなかったのにと思うと腹が立った。
急いで帰宅したが瞳はなかなか帰ってこなくて部屋の中を何百周もすることになった。
飲み会と言ったっけ?
誰と?
聞いてない
日付が変わっても帰ってこない。
帰ってこないつもりなのか?
電話をしてもメッセージを送っても返事が返ってくることは無かった。
気がついたらソファで少し眠ってしまったようで慌てて時計をみると午前6時だった。
ベッドルームをみて玄関を確認したが瞳はまだ帰ってなかった。
まさか浮気?
いや、瞳に限ってって、そんなのダメに決まってるだろ。
ソファに座ってもいられず玄関に座り込んだ。
1分1秒も長く感じる。
もしかしてもう帰ってこないんだろうか?
ウトウトしていると鍵の開く音がして一気に覚醒した。
「ただいま」
何事もないように瞳は玄関で靴を脱いでバッグをダイニングの椅子に置き、ベッドルームに向かった。
「ただいまじゃないだろ?何時だと思ってるんだ、もう昼だろ」
「別に今日は仕事休みだから問題ないわよ」
瞳は全くこちらをみることなく淡々と答える。
流石にオレだってこんな態度を取られれば腹が立つ。
腕を掴むと「そういうことじゃない」と怒鳴り気味になった。
「どういうこと?日付が変わらなければ美優ちゃんとベッドで一緒にいるのはいいということ?」
言い訳が空回りする。
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