<責任>

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『あんのクズ!何やってんのよ』 確かにクズだと思うけど、好きで結婚したことがある人だから言われるとちょっと複雑かも。 「まぁ、そうね。というか、信用はしてないけど本当に正人が美優だけなら感染源は美優だよね」 『他にもパパがいたんじゃないの!てか、妊娠とか大丈夫なの?』 「え?」 ベッドに寝そべってスピーカーにして会話をしていたが、里子の言葉に上半身を起こした。 それって 『避妊せずにヤッてたってことだよね。でも、瞳はレスだったんでしょ』 「そうだけど、自覚症状のない人もいて実は前から感染してたとか、考えれば考えるほどマイナスなことしか考えられないんだよね」 『そうだけど、結果が出ないことには考えても仕方がないよ』 「うん、そうだね。話を聞いてもらってよかった。そろそろ切るね」 『お休み、きっと大丈夫だよ』 「うん」 気持ちが少しだけ落ち着いた。 スマホに設定したアラームで目が覚める。 手を伸ばしてもスマホに指は触れなかった。 重い体に力を入れて起き上がり周りを見るとベッドの下にスマホが落ちていた。 一日が始る。 「竹内から出戻った奥山、よくよく考えたらこの間の案が良かったなあっちで進めていくから」 宇座課長の嫌がらせも流石にこれ以上長引かせると“課”として問題になりかねないから、いつもギリギリのラインでGoを出す。 しかも決まってすでに自分でボツにしたものだ。 「わかりました」 くだらない嫌味よりも、バレンタイン商戦や検査結果の方が気になる。 ミーティングルームに入るとチームの3人がすでに席に着いていた。 「ホント、アレどうにかなんないのかな?」 一つ年下の佐々木さんが嫌悪感を隠すことなく言い放つと木本さんも「モラハラの権化よね」と言いながらもパッケージ案を組み立てたものを並べている。 小袋に入ったチョコを購入で小分けにできる小さなギフトボックスが付いてくる側面にはメッセージを書き込めると言うもの。 「聞き流せばいいだけだから、というか準備がいいわね」 「今までのパターンと観察です。この案を出した時に一瞬口角が上がったんですよ。多分、ギリギリでこれになりそうな気がしたんで」 「さすがですね勉強になります。てか、ウッザー、アレヤバいですよ。訴えればいいのに」 里中くんは新卒で頭がキレるがちょっと宇宙人ぽい、そこが面白いんだけど。 てか、上司をウッザーとか言ってるし。 「ばらまき用に小分けボックスはいいけど、平面で自分で切って組み立てて、メッセージカードも別にしてそれらが一枚のシートで2セット作れる形ならコストが下げられるわよね」 「パッケージデザインですが、SNSにイラストを投稿しているRyoさんっていう絵師さんがいるんですけど」と言って里中くんがタブレットに表示するとそこには可愛らしくデフォルメされた人物や動物、花などが色彩豊かに描かれたイラストが並んでいた。 「本業って感じではなさそうですが、SNS内では人気があるんですよ、僕も好きです」 確かに誰が見ても可愛いと感じるイラストで、今回のコンセプトは友人や同僚などに感謝を込めて贈るというものだから、既存の商品を使ってばら撒きチョコを作るのが目的だ。 Ryoにはまずは里中くんがメッセを送るということでミーティングを終了させた。 部屋を出ようとした時、「そうだ」と言って里中くんが「ウッザーと話をするときはなるべく録音をしておいてください」と言って可愛い笑顔で歩いて行った。 まぁ、何かに使う事はないとは思うけど、確かに度を過ぎる発言は記録があった方がいいのかもしれない。 お弁当生活を終了したため、近くのハンバーガーショップへ行きWバーガーを頬張りながらスマホを見ると凌太からラインが入っていた。 →[週末、ランチはどう?] 正直、そんな気分じゃないけどむしろどこかに出かけるのもいいかもしれない。 [土曜日は?] →[瞳のためなら大丈夫] 何だか軽い・・・ 女性を誘うのに慣れている感じがする。 学生時代も“過去の女”的な影がちらほらあったし、接触してきた人もいたっけ。 でも、付き合っているときは他に誰かがいたような感じはしなかった。 気が付かなかっただけかな? あの頃は私も色々と勉強不足だったし。 [じゃあ土曜日で、ファミレスでいい?] →[いいよ] [◯◯駅で] ハンバーグが美味しい店だ。 ふと、トレーを見る。 私ってどんだけハンバーグ好きなんだろう。 ふふふと笑いが漏れてしまった。 →[了解、楽しみにしてる] バイバイと手を振っているスタンプを押すとすぐに既読がついた。 凌太はどういうつもりなんだろう。 私はどうしたいんだろう。
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