<美優>

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「おかえり」 正人はとても朗らかに出迎えてくれた。 「お弁当を買ってきたけどそれでいい?」 「もちろんだよ」 ダイニングテーブルにのり弁を正人の前に置き、和牛ステーキ弁当は自分の前に置いた。 その様子を見ていた正人が「え」と思わず声が出ていた。 その声を無視して一つの湯呑みにお茶を入れて和牛を食べ始める。 あなたのお茶は淹れていないけど喉を詰まらせないでねと心の中で言ってみた。 その姿を呆然と見つめる正人に「それで?美優ちゃんは誰なの?」と言うと、ヘラヘラ笑いをしながらのり弁を食べ始めた。 「多分、同僚の妹かもしれない。ドッキリみたいなやつ?」 同僚の妹?バカじゃないの!とは言えないから 「パパ活じゃなくて?」と切り返したら んぐっつ 正人は喉に詰まらせたのか胸を叩きながらシンクに走っていき水を飲んだ。 少し落ち着いてから 「何言ってんの、そんなわけないじゃん」 「だよね、ただ昨日、正人が私にママ活でもしたらって言っていたから正人がやってんのかと思って」 はははとバカっぽく笑いながら「そんなわけないじゃん」と言うけどそのセリフさっきも聞いたし。 「まぁドッキリ的なやつだからさ、監視カメラを見るとかやめてあげてよ」 そう言いながらコップに入った水を持って戻ってくるとのり弁を食べ始めた。 のり弁は食べるのね。 「考えとく」 そう答えて、和牛のステーキを黙々と食べた。 一日考えた言い訳が、ドッキリだって。 バカじゃないの。 せっかくの和牛ステーキ弁当も味がわからなかった。 美優のインスタに、[お手紙ありがとうございました]とメッセージを送り念のためにスマホのパスワードの変更をしてから、しばらくは不便だがインスタやラインの通知をオフにして風呂に入った。 お風呂から出ると手帳型のスマホケースのベルトが閉じていた。 私は普段はきっちりとベルトを閉じるが、今はベルトをわざとせずに置いておいたから、正人がスマホを触った事がわかる。 必死だな。 昨日よりも、今日、正人に対して気持ちが冷えていくのが分かる。 ラインを起動すると里子から明日の事について連絡が来ていた。 里子【急な話なのに結構集まりそうだからカラオケのパーティルームにした】 メッセージの後に地図が送られてきた。 【楽しそう】 里子【旦那の進捗please】 【美優は同僚の妹の名前でドッキリだそう】 里子【マジウケるんだけど】 【美優にお手紙ありがとうってインスタにメッセ送っといた】 里子【やったれ】 頑張ると書いたスタンプを送信した。 カラオケのパーティールームって何人来るのよ。 でも、楽しみ。 元カレはこんな下々の集まりには来ないだろう。なんと言っても“家格”が違うのだから。 彼とは大学入学時のオリエンテーションで隣同士になりそれから何かと同じ講義で顔を合わせるようになり話をする内に半年後に彼から告白されて付き合い始め将来のことはどうなるかはわからなかったけど、それでも二人でいることがとても自然な気がした。 大学卒業後、彼は1年間の海外留学に行った。大きな会社の創業者一族でいずれその長となる事が決まっていた為、海外を知ることと語学研修の一環でもあった。 ところが彼が日本を発ってすぐに、彼の母親が私を訪ねてきた。 あーやだやだ思い出してきた。 気がつくと正人はバスルームに行ったようだ。そういえばいつくらいからだろう、正人が風呂に入るのにスマホを持っていくようになったのは。 インスタを見ると美優から返事が来ていた。 美優【わかってもらえました?】 何を? ここは色々とカマをかけてみよう。 案外、自爆するかもだし。 【パパ活してるってことですか?】 美優【違います。愛し合ってることをです。結婚の約束をしてます】 バカなの? 【インスタも見ましたが、パパ活か援助交際くらいにしか見えないです】 美優【そんなんじゃないです!】 プンスカと書かれたスタンプが送られて来た。 よし!バカっぽいぞ、もっと煽ってみよう 【楽しそうなおじさんと援助を受けてる女の子にしか見えないですね】 そう返すと、返事が戻ってこなかった。 もういいや、寝よ。 正人が風呂に入っているうちにベッドに入ったが、なかなか眠れないでいると、正人もベッドに入ってきて体に触れてきたから「やめて」と言って振り払った。
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