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呪われ姫ベロニカは、国中から暗殺者を仕向けられる存在だ。愛称はおろか彼女を名前で呼ぶ者すらいない。
「……すみません、今のは俺が悪かったです。姫」
「……呼んでくれないんですか」
「そんな呼ばれたいんですか!? 生産機って」
しゅんっとなってしまったベロニカに、何だかとっても良心が痛み出した伯爵は、大きくため息をつき、
「俺みたいな人間が、本来一国の姫とこんな頻繁に会う事などありませんし、ましてや渾名で呼ぶなどありえません。王家に慰謝料請求されても払えるわけもないので勘弁してください」
と素直に頭を下げた。
「そう、ですね。私は、伯爵の人の良さにつけ込んで殺してくださいと頼んでいるだけの人間ですものね。友達というわけでもないのに、名前や渾名で呼んで欲しいなど、欲張りすぎですね」
気になさらないで、と死にたがりの呪われ姫はそう言って寂しそうに微笑む。
そんなベロニカを見てさらに良心がいたんだ伯爵は、彼女から目を逸らして、
「生産機、はないですが、その……失礼でなければ、たまにお名前をお呼びするくらいなら……」
と譲歩の姿勢を見せた。
「なるほど! これがいわゆる"ツンデレ"という奴なのですね!! 懐かない猫が自分だけにすり寄ってきた時の優越感にも似た感情! これが"キュン死に"への第一歩ですね!!」
そんな伯爵を見たベロニカはぐっと拳を握り締めそう叫ぶ。
「違う! 断じて違う!! 誰がツンデレだ、このトンデモ姫がぁっ!!」
言葉の定義からして違う!! っと、伯爵は姫に全力でツッコミを入れた。
ジャムを煮ている間に、姫が淹れてくれた自家製ハーブティーを頂く。
「で、何で"キュン死に"? しかももうそれほぼほぼ死語。今は"萌え死ぬ"とか"萌え尽きる"とかいうらしいですが、いずれにしても本当に死なないから」
ベロニカのペースにすっかり巻き込まれ、取り繕うのが面倒になった伯爵は普段通りの口調に戻す。
「伯爵詳しいですね。でも巷では、トキメキ過剰摂取は天に召される、もしくは萌えが足りないと萎れると小耳に挟んだのですが……」
伯爵のぞんざいな態度なんて全く気にしないベロニカは、首を傾げてそう尋ねる。
「うん、それ物の例えだから」
「ですが、心的負荷は有効なのではないかと思うのですよ! ほら、私物理的な攻撃ダメそうですし」
確かにベロニカには呪いの効果で物理攻撃が効かない。
銃殺を企てれば銃から出てくるのは何故か弾丸ではなく万国旗だし、撲殺を企てれば殴りかかろうとしたハンマーはハリセンに早変わり。
そして本日持って来た毒は砂糖水になると言う不思議現象が起きるのだ。
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