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「それが、突然大きな緑の化け物が集落にやってきたのです」
ポン吉は急に声を顰め、秘密めいてそのように述べる。恐れていた事態が起こったようだ。背後では今もミケとその化け物が戦う音が響き渡っているものだから、いまさら顰める意味がないようにも思われる。
「集落?」
「ミケ様が応戦されている先には狸の集落があります。狸はこの森に間借りしています。それでミケ様とは仲良くさせていたただいています。それよりミケ様から伝言なのです! お兄さんが……お姉さんが? お姉さん? どっち」
「んだてめぇ、文句あんのか?」
「ヒィ! ミケ様は足止めをされるので、ヘンナイジンが来るまでお兄さんを隠すように、とのことです!」
ポン吉は見下ろすアディソン嬢の恐ろしげな視線にめげず、気丈にも要件を叫んだ。
「へぇ。なかなか肝が座ってんな。いいぜ。化け物の狙いはこいつだろうからな」
「えっ? このお姉さんが、ですか?」
そういえば俺は今白い女の姿なのか。
頭をひねるポン吉の声は疑念に満ちていた。
「うん? 別の狙いでもありそうなのか?」
話を聞いてみれば、どうやら緑の怪物はこの狸の森を見つけて突然襲いかかってきたらしい。そこで慌てふためいた狸と戦闘態勢になりかけたところをミケが割って入ったそうだ。その際、例えば皮を探すなど、何かを探る様子はなかく狸に襲いかかったそうだ。
何か妙だ。そもそも、その化け物は何故狐を襲ったのだ? その時は皮を着ていたはずだ。
「おいポン吉、その化け物はなんでまたお前の村を襲ったんだ」
「何……ですか?」
「襲う目的というものがあるだろう」
何かが引っかかる。
「何故? 僕たちを食べようとしたからでしょう!」
先程の画皮の話では、確かにその化け物は、主人を殺した。
けれども画皮はその腹いせのように主人を殺し、心臓を持ち去っただけだ。食べたりはしていないよな。
それに道士が守りをかけさせるまで、主人本人は違和感を感じていなかったわけだ。婦人も主人の浮気に怒っていただけで、少女のことを怪異とみなす者はいなかった。そして狐には怪我人はでたものの、食われたものはいない。まあ、追い返したからかもしれないが。
画皮は何がしたいのだ? そのような疑問が改めて浮かぶ。
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