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緑の鬼
なんとか追いかけて見たのは散々な状況だった。
巨大な暗緑色の鬼とミケが対峙するその周囲5メートルほどの木々はなぎ倒され、森の中にぽかりと隙間が空いている。ミケは体勢を低くしてぐるぐると唸り、その隣ではアディソン嬢がサーベルを構え、その少し後ろにハーンとなんだかよくわからん緑色の光る玉が5つばかり浮き、そこからバチバチと放電している。こいつは魔法使いなのか。初めて見るタイプだな。
けれどもまさに一触即発。これは危険な状態だ、危険だがこのままじゃ誰も俺の話を聞きゃしねえ!
「ええい、ままよ!」
俺はそのど真ん中に飛び込んだ。つまり緑の鬼とミケの間に。そしてその瞬間、当然のように緑の鬼にかじられた。そして俺の四肢は緑の鬼に掴まれ引き裂かれようとしている、ように見えるだろう。客観的には。
「にゃ! にゃんー!!」
「おい馬鹿何やってる!」
さすがにこの状況でアディソン嬢は気楽に切り込んではこないだろう。その公算はあった。そうして俺はやはり、俺を齧るその緑の鬼から敵意というか害意のようなものは感じなかった。かじられるのは想定外だったが噛みつかれてもこの皮の丈夫さのせいか、痛みを感じなかった。よかった。
「まて、まて脱ぐから! 今! 早くしねえと来ちまう!」
「来るって何がだよ!」
アディソン嬢が害意を込めて俺、もっというと俺の後ろの緑の鬼を鋭く眺めている。そしてその害意は当然、緑の鬼と一体となっている俺にも及んでいるのだろう。それに何より俺と緑の鬼はだいたいくっついているものだから、客観的に見ればこの時点でもはや俺の敵は鬼だか皮を狙うアディソン嬢なりハーンなのだ。着たときと真逆に首筋に触れればさらりと皮の端がめくれ、そこからなんとか脱ごうとするが慌てているせいかうまく脱げん。その瞬間、背筋がゾワリと硬直する。再び、気持ちの悪い感触が頭に響き渡る。間に合わない。来る。
そう思った瞬間、空気が振動する奇妙な音がして、俺の隣にうす青白い光をまとった狩衣姿、つまり陰陽師の格好の鷹一郎が唐突に現れて刀を抜き、あたかも吸い込まれるようにアディソン嬢に斬りかかる。当然のごとく鷹一郎の姿に対して攻撃の意図を乗せたハーンに向かってその懐から散り出たたくさんの付呪が宙を舞い、その火の玉を霧散させる。
「土御門! 何のつもりだてめぇ!」
「鷹一郎! 大丈夫だから! 大丈夫から止めて! おい! 聞け!」
鷹一郎は数合アディソン嬢と切り合って後、ようやく用心棒は動きを止めた。
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