ミケと皮

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 ヤタさんの掻い摘みすぎる話によれば、神社から四半刻ほど北東に歩いた所にある管塚稲荷社(くだづかいなりしゃ)の森に狐の一族が住んでいる。土御門の森の生き物が狐の一族を訪ねたところ、狐らとこの皮をかぶっていた存在が戦闘中であったそうだ。  土御門のものは狐に加勢した。戦いの中でこの皮が脱げ、中から何かが出てきて逃げた。けれども深夜の森のことなので、その存在が何かはわからぬ。森の生き物は宮司、つまり鷹一郎に聞くのが早いと思い皮を預かり運んできたが、生憎、鷹一郎は不在だった。  今朝の光景から、その生き物というのはミケなのだろうなと思う。  ミケが戦ったりするのかな。いつもゴロゴロと可愛いから戦う姿なんてあまり想像がつかない。 「ヤタさん、なぜ狐はそいつと戦っていたんだ?」 「わからぬ。後にうちのものが狐に聞いたところでは、突然襲われたそうだ」 「へぇ。動物の世界も物騒なもんだな」 「問題はその存在が何か、土御門の森に危害を加えるものか、ということだ。つまり、この皮を取り返しに来るかどうか」 「……ヤタさん、その黒いのは危険なものなのかい?」  ヤタさんは飛んで逃げられるだろうが、ミケがそんな物騒なものに襲われては可哀想だ。 「わからぬ。だが異人の皮を被っているということは、異国のものかもしれぬと思ったのだ」  アディソン嬢を見れば、何事かを考えているように、じっと唇を引き結んでいた。 「皮、皮ねぇ」 「アディソン嬢、何か心当たりでもあるのか?」 「いんや、それだけじゃ絞りきれねぇな。ようするにそれは変化の類だろう?」  変化、変化というものは本邦においてもよく耳にする。  化け猫や化け狐、猿や蛇、様々なものが人の姿を取る伝承は類を待たない。けれども变化というのは動物が人やらなにやらに変化するものではないのだろうか。 「ヤタさん、その皮を脱ぐ前ってのは、この偉人の女の姿だったのか?」 「そのように聞いておる」  そう思って改めて見れば、異人の女の皮はどこかほっそりとしていて、やっぱりあまり闘うようには思われない。
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