謎の異人

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 アディソン嬢はぐうと呻めきをあげた。……俺にはさっぱりわからんが、相通ずるところでもあるのだろう。お近づきにはなりたくない。  ともあれ、手がかりは途絶えた。 「なあ、ハーンさんって言ったか。あんたからみてその白娘? ってのは危険なもんなのかい?」 「いえ、そうでも、ない、ような」  なぜそこで語尾を濁して目を逸らすのだ。 「半ば封じられた状態で引き渡しを受け、それからはハウスメイドに命じて食事などを用意させてはいましたが、大人しいものだったようです」 「そんで封印を解いたら逃げ出したっていうのか?」 「テメェ馬鹿だろ」 「一応守りは敷いていたのですが、相手が上回ったようですね、はっはっは」  はっはっはではないと思う。 「おい。そんでお前の守りってのは道教の呪符かなんかなのか?」 「いえ、得体が知れませんのでそれはもう様々なものを用意いたしました。道教をはじめとして基督教、回教、拝火教、この国で手に入る神道、陰陽、修験の護符やら聖水やら経文やら各種色々ですね。幸い収集は私の趣味ですので」  やけに自慢げに言うが、それ以前の問題だろう。 「ふうん? まあそんならしゃあねえのかな」 「おいそれはしゃあねえもん……なのか?」 「好奇心は猫を殺すっつうからな。はは」 「左様ですね。はっはっは」  妙に意気投合を始めた。こいつらも頭がおかしい仲間か。  アディソン嬢がいうには、その白娘というやつが売られていたということは、それなりに安全を確保していたということだそうだ。そしてこのハーンは可能な範囲で対処をした。けれども問題は。 「てめぇがわからねえのに迂闊に開けちまったのと、そもそもてめぇが扱いきれる術者かってこったよな」 「それがどうも、仰るとおり好奇心に負けてしまいましてね」  例えば鷹一郎ならば、おそらくそれが何かわかるまでは手を出さないだろう。この異人はより頭がおかしい。それで目下の検討事項は一つだ。一応俺は今、ここの神社を預かってる身だ。 「それでよ、俺が知りたいのはそいつが危険なものかどうかだよな。ミケが襲われたら困るもんな」 「にゃん」 「……ミケ殿が易易と負けるようには思われませんが、いかんせん私もその黒いものというものを見ておりませんからね。調べてみましょう」  そう述べてハーンは手に持っていたカンテラに火を点けて翳し、そこに細い草葉を投げ入れて燃やせば奇妙な紫色の細い煙がたなびき、一方は白娘の皮に、もう一方は四方にするりと拡散した。 「ふうむ、どうやら近くにはいるようですな。けれども結局白娘が何かわからねば、対処のしようがありません。はてどうしたものか」 「いや、俺はこれがなんだか、なんとなくわかったぜ」  アディソン嬢は自信ありそうに大きく頷く。
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