前髪、朔夜

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
誰か、僕の理想郷を壊して。 そうだ。二人の隙間にも、夏風は通り過ぎて行く。 寝息を立てて寝る少女。 扇風機から発せられる無機質な空気と交信した彼女。 思うに、『君』が一番輝いて見えるのは、 周密とした優しさで、 合間に魅せる笑顔で、 沁みるように眠る姿だ。 その最後の姿が、今僕の前で繰り広げられている。 『もうすぐ花火大会が始まるぞ』 すやすやと眠る彼女に、訊いたが、何も返ってこない。何処か、僕の声が小さかったからかもしれない。 そんな折、何故だかが、戻れない中に生きていることを心に刻んでくれた。 紛れもなく寂しくて、意味を紛れも無い『君』に問った。 返事もまた、二人の間を過ぎる夏風に、攫われてしまったのかもしれない。 ─────帰路に、手を繋いでいたのに。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!