忘れかけていたクリスマス

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 (すさ)んでいる。私の心は荒み切っていた。それなのに二学期最後の日、クラスメイトがまた同じことを訊いてきた。 「ねぇ、高校どこにするか決めた?」  もう……  毎度同じことを訊いてくる! 仕方なく私も、いつも同じ言葉を口にしていた。 「まだ。だって模擬テストの点数、最悪だったし……」  明日から冬休みに突入する。冬休み直前かぁ。まだ小学生だった頃、ワクワクしていたよなぁ…… でも中学生活最後の冬となった今、なんかクリスマスもお正月も「別に…」って感じ。全然楽しみじゃない。  その理由は、ただひとつ。年が明ければ高校受験一色の世界に突入するから。私にとって冬休みが嬉しくないのは、受験というユウウツな山場が控えているせいだった。  でもそうはいっても今日みたいな休み前の早帰りの日って、ちょっとテンションが上がる。お昼過ぎに帰れるという、ほんの少しの非日常感。それがそう感じさせるのだ。  あ……  前のほうでテレテレ歩いてる(やつ)、アイツだ。よし、一緒に寄り道して帰ろう。 「やっほー、二学期お疲れさま」 「おぅ。お疲れカツカレー」 「相変わらずギャグがオヤジだね」  普段なら「気になるアイツ」に自分から声を掛けるなんて、しなかっただろう。でも早帰りという開放感が、私の背中を押してくれた。 「あのさぁ……」 「なにさ」 「前から気になっている場所があるんだけど……これから一緒に行ってみない? 」 「え、どこ?」 「隣町。丘の上にある教会!」 「今日かい?」 「…… 」 「あ、あのキョ、教会ね。知ってる。オレも前から気になってた。でも……中に入れるのかな」 「大丈夫だと思うよ、割りと大きな教会だから。ほら外国の映画なんかでさ、子供がいきなり誰もいない教会の中に入って行ったりしているじゃない」 「……映画? 子供?」  彼には私の説明が理解出来ていないようだった。それでも何の迷いもなく、彼は一緒に歩いている。  まるで遠い昔に交わした約束のように、私たちは校門を後にしていた。
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