ミユキの特別な日

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 顔から血の気が引いて行くのを感じながら、どうすればこの危機を乗り越えられるか必死に考えた。とりあえず、殺されるのだけは勘弁だ。この場はひとまず言われた通りにしておこう。 「……わかった。僕と結婚してくれ」  すると、意外な言葉が返って来た。 「嫌。私、ユウくんと結婚したくない」 「え……?」  ミユキはつぶらな瞳に涙を浮かべて言った。 「ユウくんは私と特別な日を祝ってくれない! 二人で一緒に歩んだという記憶を私の胸に残そうとしてくれない! そんなの寂しいじゃん! 私はもっと二人の思い出を大事にしてくれる人と結婚したい! バイバイ!」  そのままミユキは席を立つと喫茶店を出て行ってしまった。僕はしばらく呆気にとられていたが、同時にホッとしてもいた。正直、最近のミユキといるとホラー映画の主人公になったかのような気分だったのだ。  ミユキが別れたいというのなら、それで良い。さよなら、ミユキ。  それから半年以上の月日が流れた。僕の生活は穏やかな日々に戻り、やがて新しい恋人もできた。ミユキほど美人ではないけど、とてもしっかりした常識的な女性だ。いつしか僕は彼女との結婚を考えるようになっていた。 「これ、見せて頂けませんか?」  僕がプロポーズのための指輪をデパートで買おうとしているときに、スマホが振動した。ショーケースから店員が指輪を出す間にメールをチェックして、思わず瞳孔が開く。ミユキからだった。 「ユウくん、久しぶり! 今日は何の特別な日かわかる? えっとね……ユウくんがパパになった日だよ! おめでとう! 認知してね!」  メールにはベッドに横たわるミユキがピースして新生児と一緒に写っている写真が添付されている。訝し気な店員をよそに、僕はあわあわと天井を見上げた。  ……ミユキ、僕の人生に特別な日はいらない! 味気ない平凡な毎日が良い!
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