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その後もミユキは僕にまつわる特別な日を祝い続けた。パソコンが新しくなってちょうど半年とか、会社の取引先の創立記念日とか、通勤電車の車両のデザインが変わって一カ月とか、僕も知らない事実を喜々として告げるミユキはもはや恐怖でしかない。
もう我慢できないと思ったある日、別れる決心を固めてミユキと会った。
「話って何?」
ミユキはいつものようにニコニコしながら僕に尋ねる。その余りに無邪気な笑顔に僕が別れ話を切り出せずに困っていると、ミユキが言った。
「じゃあ、私から話しても良い?」
「あ、ああ。もちろん構わないよ」
「ねえ、ユウくん。今日はユウくんにとって本当に特別な日なの。何の日かわかる?」
「……いや。わからない」
僕が恐怖を堪えるようにして答えると、ミユキは満面の笑みになった。
「今日はユウくんが私にプロポーズする日なの! おめでとう!」
「えええええっ!? ちょっと待って! どうして!?」
僕が顔をのけ反らせて驚くと、ミユキは不思議そうな顔をした。
「だってそうなんだもん。私が今まで記念日を間違えたことあった?」
「いや、ないけど!」
「じゃあ、しなきゃ。さあ、ユウくん、プロポーズして!」
「……しないとどうなるのかな?」
僕が小さな震え声で尋ねると、ミユキは悲しそうな顔をして自分のバッグの中に視線を落とした。
「そのときはユウくんが包丁で刺される日になるの!」
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