夢、うつつ。

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一日入院させられ自宅に戻ると、残っている有りったけの薬瓶を棚から取り出した。 これだけあれば、永遠に眠っていられる。 もうどうなったって構わないから、一緒に居させて。 何故だが今日は、律が逢いに来てくれるような気がしていた。 「あ、はは···!」 全ての薬瓶を逆さにすると、テーブルいっぱいに白が広がった。 愉快な気分になってきて、なんだか笑えてくる。 適当に鷲掴んだ錠剤を口の中へ放り、噛み砕きながら開けたばかりの缶ビールで流し込んだ。 こんなんじゃまだ、まだ足りない、もっと。 逸る心に急かされ、次々と散らばる白を掻き集めては飲み干していく。 そうして同じ行為を繰り返し何度目か分からなくなった頃、テーブルの上は空になっていた。 これでやっと、苦しい日々から解放される。 ふらつく足でベッドに向かい身体を横たえると、瞬きをする間もなく深い眠りへと落ちた。 予想通り律はそこに居て、ニコニコと笑いながらご機嫌そうに擦り寄ってくる。 柔らかい髪を撫でると、体温が伝わってきて涙が溢れた。 愛おしくて、愛おしくて、たまらない。 今更になって、ようやく自分が恋をしていたことに気付いた。 「すき、なんだ···お願い···ずっと、側に居て···」 情けなく泣いて懇願する俺を見て、一瞬驚いた様子で目を見開いたが、すぐにパッと表情を明るくして微笑んだ。 受け入れてくれたと思って良いのだろうか。 まだ不安が残り縋るように手を伸ばせば、その手をぐっと力強く引かれる。 よろめいてそのまま胸へ飛び込むと、腕の中に閉じ込められた。 ぬくもりに抱かれてようやく安堵し、幸福感に包まれていく。 ーーーあっは、堕ちた。可哀想な人。 ふと唇を耳元に寄せた律が、可笑しそうに嗤いながら囁く。 初めて聞いた声は冷たく、まるで悪魔のようだった。
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