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あれから三度ほど逢ったきり、急に律が姿を見せなくなった。
今までも毎日現れていたわけではないが、一ヶ月も顔を合わせないのは初めてのことだった。
何をするにも律のことばかり考えてしまい、仕事でミスが続いていた。
上司や同僚にも最近のお前は変だと言われるが、そんなの自分が一番よく分かっている。
分かっているけれど、感情がコントロール出来なかった。
今夜は、今夜こそはと眠りに就き、目が覚めて落ち込む朝を、あと何度繰り返せばまた逢える?
このまま失ってしまったらと思うと、胸がざわついて生きた心地がしない。
為す術なく更に一週間が経ち、もういっそ忘れてしまいたいと考え始めた頃、何事もなかったかのように律が姿を現した。
いつもと同じ綺麗な笑みを浮かべて、手を振っている。
「良かった···本当に···」
駆け寄ってきつく抱き締めると、律はゆるりと俺の背中に腕を回し、あやすように優しく丁寧に撫でた。
話したいことが沢山あったはずなのに、薄い肩に顔を埋めたまま、深い安堵感に震える吐息みたいな声が溢れただけ。
このまま、朝なんか来なければ良いのに。
今はただ、そう願うばかりだった。
けれど当たり前に朝は来て、目覚ましのけたたましい音に叩き起こされた。
カーテンの隙間から漏れ出す、キラキラとした太陽の光が憎らしい。
支度をしなければならないのに、寂しさが全身を包み、起き上がるのも億劫だ。
今度はいつ逢えるだろう、そもそも次はあるのだろうか。
どうしようもない不安が押し寄せてきて、堪らない気持ちになる。
ずっと眠っていられたら、どんなに良いだろう。
込み上げてきた涙が落ちる寸前、再びアラームが鳴る。
ため息をひとつ零して、仕方なくベッドを抜け出した。
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