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「夏生……?」
心配そうに見つめる那月に気付き、咄嗟に作り笑顔で心情を隠す。
「……あー、男の勲章、ってヤツ?」
顎下に、親指と人差し指を立てた手を構え、視線を横に外し、決めポーズをして見せる。
チラリと、教室内に向ける視線。
既に二人は離れ、後ろのドアに向かって歩く山本の後ろを、背の低いさくらが追い掛ける。
その姿が、可愛くて。健気で。
抑え切れない感情が溢れて弾け、夏生の胸を熱くする。
「アハハッ。……何赤くなってんの?!」
那月の声に邪魔され、直ぐに戻される現実。
恨めしそうに視線を戻した夏生に、那月がにやにやしながら顔を寄せる。
「つーかさ。なっちって、喧嘩とかしちゃうんだぁ~」
「……いや、不意打ちくらって……」
「ハァ~~!?? マジ?! 超ダッサ!!」
容赦なく、那月が腹を抱えてケラケラと笑う。
「……羨ましいぞ、なっち」
「そうだそうだ!」
「イチャイチャ見せ付けんなー!」
「ポッキーゲームとか、絶対すんなよー!」
「すんじゃねーぞ、なっち!」
いつの間にか。
ドアにへばりついて顔を出した野郎共が、二人の様子をガン見しながら囃し立てる。
「──はぁ?! ふざけんなっ」
「あはッ。折角だから、見せ付けちゃおっかぁー、なっち!」
乗り気になった那月が、持っていた小箱からチョコトリュフをひとつ摘まむと、口に含む。
「………はっ? 何コレ……」
それまで嬉々としていた表情が、サッと消える。
「……なっ? 人間の食いモンじゃねーだろ?」
その青ざめた那月に向かって素直な感想を述べれば、眉尻を吊り上げた那月の額に、幾つもの血管が沸々と浮き出る。
「なっちのバカ!!」
──ガッッ
那月のグーパンチが、夏生の頬にクリーンヒット。
容赦のない攻撃に、夏生の咥内に再び血の味が滲む。
「てゆーかさぁ。さっきから持ってるソレ、……何?」
頬を押さえる夏生に、訝しげな眼を向けながら、下の方を指差す那月。
その先には……華やかなリボンの付いた小さな手提げ袋が。
「あー、ほら。オレってモテるから……」
「──全部喰え!!」
いけしゃあしゃあと言ってのける夏生の口に、手作りチョコが次々と詰め込まれる。
「……おま、ふざけ……、っ」
口端が切れたナツオの食べたチョコは、少量の血と超がつく程ビターなチョコが混ざり合った、バイオレンスな味だった。
violence end……
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