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大晦日の夜
肌が切れる程の冷たい夜風。
顔を少し上げれば、薄明かりにぼんやりと白い息が見える。
ライトアップされた神社の境内。大きな鳥居。参道の両脇に立ち並ぶ燈籠。道路脇から駐車場辺りにまで連なる、活気のある様々な屋台。
幼子を抱っこしながら列に並ぶ家族。身体を寄せ合う若いカップル。大学生グループだろうか。少し派手めの男女が集まり、露店の甘酒を美味しそうに飲みながら談笑していた。
「やっぱ、さみぃなー」
竜一と僕との間に無理矢理割り込む、幼馴染みの杉浦夏生。ジャンパーのポケットに両手を突っ込み、身体も声も震わせながらそう漏らす。
「……」
夏生はもう、忘れてしまったんだろうか。
それともやっぱり、冗談だった……?
『オレが本当に好きなのは、さくらだ!』──冬休みに入って直ぐ、夏生に言われた台詞。何時になく真剣な顔をしていて。突然、正面から抱き締められて。
『……か、揶揄わないでよ。彼女いる癖に』──苦笑しながら、そう返すのが精一杯だった。
今年の五月頃。竜一が転校してくるまでずっと……僕は幼い頃から、夏生に淡い恋心を抱いていたから。
「……うん。寒いね」
チラリと夏生を見れば、白い息と共に言葉を吐く僕を、夏生が横目でじっと見ていた。
途端にぶつかる、視線と視線。
「だよな」
「ん……」
「て事で。オレが温めてあげよう!」
「──えっ、」
驚く僕の素手を掴み、半ば強引に引っ張って自身のジャンパーのポケットに入れる。
「……な、あったかいだろ?」
太陽のような、明るい笑顔。腕と腕がぶつかり、その距離の近さに驚く。
温いポケットの中。指先に触れる、小さなカイロ。
「………、うん」
答えながら、俯く。
掴まれた手が一度解かれ、再び絡められる指。合わせた手のひらが、熱い。
……もしこれが、去年の今頃だったら。諦めずにもう少し、期待していたかもしれない。
でも、諦めたからこそ……今の僕がいる。
竜一と一緒になれた、僕が。
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