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──そうだ。竜一は……
夏生との近すぎる距離に気付き、戸惑いながら夏生の向こう側にいる竜一の様子をそっと窺う。
「……」
だけど竜一は、特に此方を気にする様子は無くて。参道脇に並ぶ屋台の方に顔を向けていた。
それにホッとしたような、淋しいような。複雑な気持ちのまま、遠くから竜一を見つめる。
「……なぁ、さくら」
それに気付いたんだろうか。不意に振り向いた竜一が、真っ直ぐ僕を見ながら名を呼ぶ。
「何かあったけぇもんでも、買ってこようぜ」
「……え、」
薄い明かりに浮かび上がる、竜一のニヒルな笑み。
この状況を視界に入れても、何も感じないんだろうか。いつもと変わらない様子に、不安な気持ちが募る。
「う、うん……」
慌てて手を引っ込めようとすれば……グッと夏生の手に力が籠められ、引き止められる。
「──!!」
そのまま、ポケットからゆっくりと取り出される繋いだ手。竜一の方へと身体を向けた夏生が、冷たい空気に晒されたそれを掲げて見せ付ける。
「なら、オレらで、──」
「……杉浦はここで待ってろ」
少し、ドスの利いた声。
その低い声が、夏生の言葉を遮って威圧感を与える。
黒いダウンジャケットのポケットに両手を突っ込み、肩で風を切りながら列を離れる竜一。
「……」
このままだと、一人で行ってしまう。……僕を置いて。
「……手、離して」
「……」
「お願い。行かせて」
必死で訴えれば、それに気圧されただろう夏生が、手を緩めてくれる。
「ありがと、夏生」
「……お、おぅ」
まだ、感触の残る手。
その手を擦りながら、見失ってしまいそうになる背中を追い掛ける。
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