なのかちゃん。

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 ***  そんなある日のこと。  七月のはじめに、教室でなのかちゃんが私に声をかけてきたのだった。 「あの、李緒(りお)ちゃん。李緒ちゃんはさ、あたしの家に遊びに来たいって言ってたよね?」 「うん、言ったよ?」  実は、この時まだ誰もなのかちゃんの家に遊びに行ったことがなかったのだった。なのかちゃんが、うちはちょっと、とやんわり断ってきたのが大きい。  理由は二つ。彼女の家が安いアパートの一室で、ようは友達を呼んで遊べるほど広くはなかったこと。あっちにこっちにと転勤しているような家ならば、そりゃ持家を買うことなどできなかっただろう。安い借家のアパートに住んでいるのも仕方ないと言えば仕方ないことである。  そしてもう一つは、彼女の妹のことだった。なんでも、なのかちゃんは本当は双子なのだというのだ。妹の名前は、同じく平仮名で“なのは”ちゃん。ただし、とても体が弱くて学校に通うことができず、家で通信教育をしているというのである。  小学校は義務教育だし、そういう教育体制というのはありなものなのだろうか?私はちょっとだけ不思議に思ったが、病気で学校に通うのが負担というのなら仕方ないことなのだろう。家ではよく体が弱いなのはちゃんが寝ているため、友達を呼んで騒ぐことが難しいという理由もあったようだった。 「もうすぐ、あたしとなのはの誕生日なの」 「そうなんだ!お誕生日おめでとう」 「ありがとう。それでね……」  なのかちゃんは、もじもじとしながら私を見上げて言ったのだった。 「他の子には、内緒にしてほしいんだけど。……り、李緒ちゃんだけならお誕生日に家に呼んでもいいよって、ママが」 「ほんと!?」 「うん。あたしとなのはが生まれた特別な日だから、本当はみんなでお祝いしたいんだけど……うち、狭いし。なのはもあんまり体が丈夫じゃないから。李緒ちゃんは優しくて静かだから、大騒ぎしたりしないし、呼んでもいいってママが言ってくれて」 「わあ、ほんとほんと!?すっごくうれしい!」  私が喜ぶと、なのかちゃんは嬉しそうに頬を染めたのだった。  今まで誰も行ったことがない、なのかちゃんの家に遊びに行く。それも楽しみだったが、それ以上に私が嬉しかったのは“彼女の特別な日に、自分だけが特別扱いされて呼ばれたこと”にあったのだった。ようは、なのかちゃんに“一番の友達”と認められたような気がして嬉しかったというわけである。
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