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家は狭いから、と彼女は繰り返し言うが、それに関してはまったく気にしていなかった。今までいろんな子の家に遊びに行ったことがあるから知っている。それこそ、ボロボロのアパートに住んでいる友達だっていないわけじゃない。でも、だからってその子を見下したりなんかしないし、軽蔑なんてするはずもないのだった。ちょっとだけ、迷惑をかけないように気を使えばいいだけのことなのだから、と。
「誕生日っていつ?プレゼント、何か買ってから行くよ」
私が言うと、彼女は一週間後の日付を言ってきた。その日だけ、忙しいお父さんも会社を休んでくれて、みんなでケーキとちょっとしたご馳走を買ってお祝いするというのである。
「嬉しいけど、本当にいいのなのかちゃん?家族の大事なお祝いに、私がお邪魔しても」
「いいのいいの。李緒ちゃんならいいって、なのはも言ってるし。パパとママも歓迎してくれるって言ってるから」
「そっか!じゃあ、一週間後によろしくね!学校終わったら、一度家に戻ってプレゼント持ってからなのかちゃんのところに行くよ」
「うん!ありがとうね、李緒ちゃん。あ、地図渡すね」
「おー!」
私は心底楽しみだった。一週間後の木曜日。私はその日は他の友達との遊びも用事も入れず、お母さんに持たされた茶菓子と自分で買ったプレゼントを持って、指定された場所へと足を運んだのだった。
妹のなのはちゃんは、なのかちゃんそっくりなのだという。一卵性双生児というやつらしい。好きなものも一致するというので、なのかちゃんが大好きな小さなクマのぬいぐるみを二つ買って持っていくことにした。当時小学生の女の子の間で流行していた“ポッピー・ベア”シリーズだ。クマのルークとマークの双子の兄弟キャラクター。双子の姉妹にプレゼントするにはぴったりだろう。
なのかちゃんに教えられたアパートは、なるほどかなりの安アパートであるのは間違いないようだった。まちむら荘、という看板が外れそうになっているし、茶色の外壁はあちこち穴があいている。外階段の手すりは錆びていて、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。
私はプレゼントを抱えて、指定された二階の202号室へと向かう。彼女のフルネームは島田なのか、だ。確かに島田、というネームプレートがかかっていた。
「も、もしもーし!藤井ですけど!」
ピンポンを押すと、中から明るい声が響き渡った。玄関に出てきたのはなのかちゃん。その後ろには、なのかちゃんそっくりの綺麗なお母さんの姿もある。
「来てくれてありがとう、李緒ちゃん!」
「お邪魔しまーす!あ、こんにちはです、おばさん」
「こちらこそ。はじめまして、なのかの母です」
綺麗な若いお母さんは、にっこりと笑って言った。
「今、丁度ケーキの準備ができたところなの。上がって上がって!」
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