なのかちゃん。

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 ***  今日はお父さんもお母さんもお休みして、なのかちゃんの学校以外は全部休日扱いにしてパーティの準備をしていたということらしい。  窓には、カラフルな紙テープで飾りつけがしてある。  五人がやっと座れるくらいの四角いテーブルの上には、大きな苺のホールケーキが。ケーキの上にはチョコレートのお誕生日ボードが飾られており、“おたんじょうびおめでとう、なのかちゃん、なのはちゃん”と書かれていた。  姉妹はどちらも九歳なので、ろうそくは九本。なのかちゃんが水色が大好きだからなのか、ろうそくは全て水色をしていた。  五つの座席の前には、ケーキの皿以外にも小さなチキンとサラダが取り分けられた皿がある。私がこの家に来る頃に丁度整うよう、しっかり準備されていたことがよくわかる光景だった。 「今日は来てくれてありがとう、李緒ちゃん!」 「う、うん」 「誕生日プレゼントとお菓子まで、本当に嬉しいです!ごちそうとケーキ、いっぱい食べてね」 「あ、ありがとう……」  私は。  勧められた座席に座りながら、違和感を覚え始めていた。姉妹のお誕生日なのに、まるで私がゲストのようにお祝いされているから、ではない。  そう、明らかにおかしなことが一つあるのだ。  なのかちゃん。そのお父さんとお母さん、そして私。  座席は五つ用意されているのに、この場にいるのは四人だけ。  一向に、なのかちゃんの隣の席に、妹のなのはちゃんが現れないのである。  最初は、具合が悪くて起きて来られなかったのかな、なんて思っていた。しかし。 「ハッピーバースデー、トゥーユー!ハッピーバースデー、トゥーユー!」  お祝いされるべき姉妹の片方がいないのに、当たり前のようにパーティは始まってしまって。 「ハッピーバースデー、ディア、なのか&なのはー!ハッピーバースデー、トゥーユー!おめでとう二人とも!九歳のお誕生日!」 「ありがとう!せぇの、ふー!」 「あはは、惜しかったね。ろうそく、あと一本のこっちゃった!」 「あー、くやしー!よし、なのは、もう一回やるよ!」  これは、何だろう。私は唖然としてしまった。  さっきから、三人の家族はそこに、当たり前のようになのかちゃんの隣の席に話しかけている。からっぽの座席に、もう一人誰かがいるかのよう。そこにいる視えない人物に話しかけて、一緒にろうそくを吹き消す仕草をしているのだ。 ――え、え?私……おかしいのは、私なの?私にだけ、なのはちゃんが、見えてないの?  それとも、この三人は三人とも、奇妙な集団幻覚を見ているのだろうか。  私は勧められるままサラダやチキンを食べ始めたが、見えない“妹”が気になり過ぎてまったく味がわからなかった。  なのかちゃんも、その両親も。普通に見えない少女に話しかけ、何か聞こえない声を聴いて応答している。しばらくの後、私はさらに不気味なことに気づいてしまうことになるのだ。  取り分けられたサラダとチキン。からっぽの、なのはちゃんの席に置かれた料理が――明らかに減っていっていることに。そう、本当に見えない誰かが、そこに座って食べているかのように。 ――こわい。  私の背中を、冷たい汗が伝ったのだった。 ――みんな、おかしくなっちゃってるの?それとも、私が変になっちゃってるの?こわい、こわい、こわい……!  きっと彼女達にとって、特別で幸せな誕生日は。私にとっては紛れもない、恐怖の一日で終わったのである。  そのあと、一体どうやってパーティを切り抜けたのか、どうやって家に帰ったのか覚えていない。  彼女の家に行ったのは、その一日だけ。  それ以降は、何度呼ばれても私はなのかちゃんの家に行かなかった。  彼女は秋には再び転校してしまい、それから連絡を取り合ってはいない。  彼女の見えない妹は、今もどこかに存在して、彼等を支配しているのだろうか。そう考えると、私は恐ろしくてたまらない。  私が今。  当たり前のように認識している家族や友達や恋人も――ひょっとしたら、と。
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