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「ですよね・・・・・・」
わかりきった返答に、蔵林 陸也は土下座をした格好のまま、ため息をついた。
のろのろと頭を起こし、地面に擦り付けたせいで乱れた前髪を撫でつける。制服についた埃を手で払いながら、蔵林は思わず頭を抱えた。
どうしてこんなことになっている。なぜ自分は、同じクラスで密かに思いを寄せる女子、三日月さんの前に土下座をして、人生における汎ゆる秘密を暴露している?
答えは簡単だ。
今から約2時間前、帰りのHRが終わり、クラスメイトが下校し始めた頃。
蔵林は、三日月にこっそりと呼び出されたのである。
「君に頼みがある」
そう囁かれた上で。
***
使われていない化学準備室に来るよう手招きされ、蔵林は心臓が早鐘を撞くのを感じながら、彼女についていった。
職員室から借りてきたらしき鍵で扉を開け、無人の室内に足を踏み入れる。
そして、数式の書かれた紙束やらフラスコやらがひしめき合う準備室の中で、こちらをゆるりと振り向いた彼女に、こう言われたのだ。
「蔵林くん。私に、告白してください」──と。
「・・・・・・へ?」
思わず、蔵林は一瞬固まった。
それから彼は足を力が抜けたようにすとんとひざまずき、憑かれたようにふらふらと手を伸ばして、「初めて見かけたときからずっと好きでした俺なんかでよければどうか付き合っていただけないでしょうか」と一息に言い切った。
だというのに、彼女はその手を振り払ったのだ。
「そんなのとっくに知ってるわ。でもね、そうじゃないの」
そう言うと彼女は、落胆したようにため息をついた。そして艷やかな黒髪を強調するように前髪をかきあげて、衝撃の一言を放った。
「君に、告白してほしいんだ。『私の知らない君に関すること』を、教えてほしいのよ」
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