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2-2
週に一度、選択の関係でぽっかりと1時間空きがあり、いつも3人でカフェで過ごす。
今日は里華も誠も別件のため久々に1人で来ていた。なんだか新鮮な感じ。ぐるーっと見回して人間ウォッチング。
「ヤバ。何あの人」
「超絶カッコいいんだけどー」
後ろから女子達のざわめく声が聞こえてきた。
振り返ると窓際にいつもいない男の人が座っていた。背が高そうな感じ。オシャレな感じ。後ろ向きだったからそのくらいの印象。
前に向き直り、滅多にない1人時間だし、携帯使って小説でも読もうかな…と思いながらふと顔を上げた時、目の前で人がぶつかりそうなのが見えた。
あっと思った時にはもうぶつかってしまって止めようもなく、お盆に乗っていたラーメンが女の子のスカートにかかった。
「きゃあッ」
女の子が悲鳴をあげた。
「スカート、脱いで‼︎」
自分のパーカーを脱ぎながら女の子に声をかけた。
女の子は熱かった様で、すぐその声に従ってスカートを脱ぎ始めた。
周りには男子も数人いたし、とにかく見えない様にしなければと、咄嗟に脱いだパーカーを女の子の腰に巻いた。
よそ見をしていてお盆をぶつけた派手なグループと、女の子の友達が言い合いになってしまっていた。
とりあえず女の子を厨房に連れて行く。
「すみません‼︎汁かかっちゃって氷をもらえませんか?」
厨房のおばちゃん達は
「あー大変じゃないのー」
と騒ぎながら袋に入れた氷を用意してくれた。
女の子に渡して近くの席に一緒に座った。
泣いてるみたいだったので、そのまま黙って側に座っていた。
少し離れた所では、まだ言い合いが続いていた。
予鈴が鳴った。
「ありがとう。これ」
「そのまま巻いてていいからね」
「ロッカーにジャージあるから、これ後で返しに行くね?今日何限まである?」
「6まで。文学部1年5組坂下です」
「あっ。私も文学部なの。2年の伊藤です」
「すいません‼︎先輩なんですね。すいません何か話し方ー」
おしとやかな伊藤さんはくすくす笑って
「全然。このままの話し方がいいな」
と言ってくれた。
「あいりー、行ける?」
伊藤先輩の友達が来た。
「うん。大丈夫。ロッカー寄ってく」
「んー、一緒行くわ」
そう言って2人で出て行った。
予鈴が鳴ってから3分くらい経っていたので、急いで席にバッグを取りに戻った。
汚れたままの床が気になって、モップがないか探してみた。
見えるところにあるわけないか…。厨房に行き、さっきのおばちゃんに声をかける。
「床汚しちゃって…モップとかありますか?」
おばちゃんはやっておくからいいよと、私の肩をバシバシ叩きながら笑った。
私も釣られて笑った。
掃除をお願いして出口へ向かう。
急に声をかけられて、肩にあったかいものが乗っかった。
驚いて見上げると、魂が抜ける程のイケメンが立っていた。どうやらこの人は、さっき女子達をざわつかせていたイケメン。
きっと一部始終を見ていたのだろう。「寒いでしょ?」みたいな事を言われた。
直視できない。
彼は経営学部の森くんと言うそうだ。名乗ったと思いきや爽やかに走り去ってしまった。
「あのーどこに返しに行けば…」
イケメン森くんはもう遠く。
ジャケットはいいにおい。
「やば。身も心もイケメン…」
思わず独り言。
実はロッカーに予備の上着があるという事を言う暇がなかった。
何だか嬉しくてその日はずっと借りたジャケットを着たまま過ごした。
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