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車両には十数人。朝のラッシュはピークの駅を過ぎた。下車駅までの2駅、乗っているのはほぼ俺と同じ大学の学生たち。1つ目の駅に着いた時、足元に何かが転がって来た。 「んぉ?」 「どした?」 右足の前に謎の実があった。何気なく軽く蹴り転がした。 突然誰かが走り寄って来てその実を拾い上げた。顔を上げると実を拾った人越しに、母親に抱かれ泣きながら手を伸ばしてる女の子が見えた。 これはその女の子が落とした物だったのか…と気づいた時には、その状況に気づかずに出て行ってしまった母親と、追いかけて出て行ってしまったその女の人がホームにいて、ドアは閉まっていた。 ゆっくり動き出した電車の窓から、実を手に持って笑う女の子と、優しい顔で笑う彼女が見えた。ドアを挟んだ右側の座席から男女が走り出し、彼女に向かってドアを叩く。 「お前、何してんのよー?」 「何で降りちゃってんの?」 今、この場所で状況を把握しているのはどうやら俺だけらしい。友達に気づいてゴメンと手を合わせて笑う彼女を置いて、電車は駅を去った。席に戻った男女は多分俺と同じ大学だろう。 「あ、LINE来た来た。次のに乗るって」 学校の入口に彼女が立っていた。俺たちの後ろを歩いていた男女が彼女に走り寄る。 「ニナ‼︎何でいんのよー」 笑いながら彼女は 「車で送ってもらっちゃったー」 と言ってVサインをした。 「とりあえず説明しろや」 3人で並んで左側の棟に入って行った。 「瞬太?どした?」 「何が?」 「なんかニヤけてっから」 「はぁ?ニヤけてねぇだろ別に」 彼女たちの姿を見送った後、俺たちは右側の棟に進んだ。
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