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ラッシュのピークを過ぎて、車両の人数がグッと減ると私たちの集合タイムが来る。
今日はギリで駆け込んだ友達の里華が、いつもと違う車両にいて、そこがやたらと空いてるからと集合をかけてきた。
確かにいつもの車両は私たちの大学の学生がたくさんいて騒がしい。少しずらすだけでこんなに違うとは大発見である。
「おはよー」
開く方のドアと反対側の座席に私、里華、そしてもう1人、誠と並んで座る。
3人とも同じ高校出身で、その頃からずっと仲がいい。
車内には十数人いて、多分同じ学校の生徒が斜め前と、ドアを挟んだ反対側と両隣の車両近くに数人。それからドアの前にお母さんと手を繋いだ女の子と、抱っこされてる女の子。
1つ目の駅に着いた時、コツンという音が聞こえた。抱っこされていた女の子が急に泣き出して手を伸ばしているのが見えた。お母さんは
「泣かない泣かない。もう降りるからねー」
と声をかけ、手を繋いだ女の子の足元を気にしながら降りて行った。
手を伸ばす女の子の目の先に何か丸いものがあって、それが座っていた人にコツンと蹴られた。
女の子の目がそれを追っているのに気づいた瞬間、席を立って拾いに行っていた。
これは何だかよくわからないけど、この子にとっては宝物に違いないんだ。実を渡した私は、気づけばホームにいたのでした。
「あの、これ」
振り向いたお母さんに実を差し出すと、女の子が半身を乗り出して実を掴み笑った。その笑顔が嬉しくて私も笑った。
電車のドアを叩く音がして、何やら言ってる誠と里華が見えた。ゴメンと手を合わせて2人を見送った。
「ありがとうございます。ここ、降りる駅ではなかったですよね?」
「大丈夫です。次ので行きます」
里華にLINEを入れながら答えると
「ここ、各駅しか停まらないので暫く来ないかもです…。良かったら、親が車で迎えに来ているので、学校まで送らせてください」
という事で、私は里華たちよりも先に学校に着いてしまったのだった。
びっくりさせてやろうと入口で待っていたら、案の定駆け寄って来て、実を拾ったところから説明をする事になったのだった。
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