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浴室に響く賑やかな声に、クリストファーは肩を揺らして笑った。浴槽に沈むマイケルのこげ茶の髪へとシャワーを当てながら優しく撫で梳く。
「わかったわかった。お前にその気がないなら仕方がない、諦めるとするさ」
濡れた髪をシャンプーまみれにすれば、マイケルは少しだけ浴槽から浮上した。
「今日はやけに聞き分けが良いな」
「せっかくノエルをふたりで過ごせるっていうのに、恋人がつれないんじゃどうしようもない」
「……よく言う」
低いマイケルの声を聞きながら、まだいくらか泡の残った髪へと口付ける。
「いい加減機嫌を直してくれないか、アモーレ?」
「……クリスがちゃんと謝れたなら、考えてやらなくもない」
「悪かった」
すっかり泡の落ちた髪へと再び口付けを落とされて、マイケルは浴槽の縁へと凭れ掛かった。すぐ目の前に膝をついたクリストファーの顔がある。その頬をそっと両手で挟みこむ。
「クリス……、キス、して?」
「仰せのままに」
「っ、……んっ、ぁ、クリ……ス、…好、き」
首にしがみつくマイケルを軽々と抱えあげる。マイケルを抱いたまま浴槽に沈み込むと、クリストファーはくるりと向きを変えた。しっかりとした胸板に背を預け、肩口へと凭れ掛かる。
「クリス?」
「少し、疲れた」
「そうか」
濡れた赤い髪の隙間から覗く肩口の傷跡を指先で辿ればクリストファーの口角が上がる。
「どうした」
「クリスこそ、なんでそんなに嬉しそうな顔をするんだ」
「嫌なものに触れる奴はいない」
簡潔な言葉だけで、充分だった。
「だからって傷を増やして帰ってくるなよ?」
「分かってるさ」
「ならいい」
満足げに頷くマイケルに喉を鳴らし、クリストファーは静かに目を閉じた。時折聞こえる水音と、背中に感じる力強い鼓動が心地良い。
どれくらいの間、そうしていたのかは分からない。不意に目を開けたクリストファーにマイケルは小首を傾げた。
「どうしたんだ」
「いや、静かなのは苦手だろう?」
「クリスがこうしていてくれたら平気だ」
「都合のいい事だ」
「恋人を抱いてるのに寂しいはずがないだろ」
「そうか」
再び目を閉じるクリストファーの躰を、マイケルの腕は一度だけ力強く抱き締めた。
「ティ アモ, ミオ テゾーロ.」
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