La France et le Royaume-Uni.

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La France et le Royaume-Uni.

 ニース市街の中心地から北へ五キロほどの場所にある閑静な別荘地の一角に建つ一軒家。そのガレージで、腹を震わせる唸りを一度だけあげて、黒いポンティアックGTOは沈黙した。  運転席を降りたロイクがドアを開けるまで、ハーヴィーは助手席にその身を置いていた。外から開けられたドアに、ようやく車外へと降り立つ。ハーヴィーは短い礼の言葉とともにロイクへと口付けた。 「本当に良かったのかい?」 「何の話だ」 「フレッドのパーティーを断っておけば、深夜に車を走らせる必要もなかったろう?」  帰宅したばかりのふたりは、これからハーヴィーの育った教会へと向かう予定だった。  ハーヴィーの育った教会は、ロンドン(London)から西へ六十キロほどのレディング(Reading)という街にある。夜のうちにドーバー海峡を望む港町、カレー(Calais)へと向かい、朝にはイギリス(U.K.)へと渡る予定だ。  ニース(Nice)からカレーまでの道のりでさえも十二時間。レディングまでの距離は、実に1,500キロメートル近い道程だ。些か厳しいスケジュールになることは当然予想できた。だからロイクは、フレデリックの招待を断ろうとしていたのだ。だが、フレデリックと辰巳の新居のお披露目を兼ねたホームパーティーへの参加を決めたのは、他でもないハーヴィーだった。 「クリスマスに家族と過ごすのは当然だろう。それに、あなただってこうして私に付き合ってくれるじゃないか」  今しがた停止したGTOの隣。愛車であるプジョー5008のリアゲートをあげるハーヴィーを、ロイクは背後から抱き締めた。 「ロイ?」 「付き合うだなんて言い方は、いただけないよハーヴィー?」 「なら、あなたもつまらない事を言わないことだ」 「まったく、君はどこまで僕を惚れさせれば気が済むんだ」 「馬鹿なことを言っていないで、いい加減離れてくれないか。あなたに抱きつかれていたら動けないだろう」  至極尤もなハーヴィーの台詞にくすりと笑い、ロイクは恋人を解放した。 「忘れ物はない?」 「ああ、子供たちへのプレゼントさえ忘れなければ問題ない」 「ふふっ、確かにその通りだけれど、君の準備が完璧なのは知ってるよ」 「だったら聞くな」  バタンと目の前のリアゲートを閉めたハーヴィーが振り返る。 「行くか」
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