La France et le Royaume-Uni.

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 運転席へと回ろうとしたハーヴィーは、だがすぐさま腰を抱きとめられた。 「ロイ」 「どこへ行くのかな?」  くすくすと笑いながら差し出される大きな手へと、ハーヴィーは溜息とともにキーを乗せた。そうしない限り、ロイクの腕を抜け出す術がない事は分かりきっている。  満足そうに額へと口付けを落とし、ロイクはハーヴィーを解放した。それどころか助手席のドアを開け、ハーヴィーを誘う始末だ。 「どうぞ。僕の大切なハーヴィー」 「運転くらい私にも出来る」 「もちろん知ってるよ。けど、君に無理はさせられないな」  溜息とともに助手席へと乗り込んだハーヴィーは、幾度目になるか分からない口付けを受ける。 「良い子だね」  甘い囁きとともに微かな水音を響かせて、ドアは閉められた。  ニースを出発して九時間。静かに流れるクラシックとともに聞こえてくる規則的な寝息を耳に、ロイクはドアトリムへと腕をかけ、片手でステアリングを操作していた。窓の外は未だ暗い。  この時期のフランスは、朝の八時を回る頃ようやく空が白み始める。あと一時間は、日の光に邪魔されることなくハーヴィーを寝させてやれるだろう。  ロイクと違い、ハーヴィーは普段から規則正しい生活を送っている。時たまに仕事でトラブルがあれば深夜の帰宅になることもあるが、それも余程の事がない限り有り得ない話だ。ハーヴィーの処理能力をもってすれば、大抵のトラブルはトラブルとも呼べない些細なものだろう。  ちらりと見遣ったバックミラーには、後部座席を格納したスペースを埋める荷物が映っていた。SUVの広いラゲッジスペースに積み込まれた荷物は大量で、そのすべては子供たちへのプレゼントが占めている。ロイクの愛車では到底積み切れない量だ。  ハーヴィーが船を降り、フランスへと拠点を移して十年以上。正直なところを言えば、いつかは飽きが来るのではないかと心のどこかで思っていたロイクである。だが、予想に反してハーヴィーとの生活は実に快適なものだった。  気遣いはすれどはっきりと意思を表示するハーヴィーは、ロイクにとって分かりやすい。それに、頭の良いハーヴィーはロイクの行動原理をよく把握している。何を言わずとも、行動で示すだけでいい。  ようやく空が白みはじめ、ロイクはスタンドへと車を寄せた。すぐ近くに小さな公園があることは、カーナビで確認してある。
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