La France et le Royaume-Uni.

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「嫌だと言ったら()めるつもりがあるのか?」 「言っただろう? 君が本気で嫌がるのなら、僕は君に手を出さない」  もう随分と前、付き合い始めてすぐに交わした約束を、ロイクは未だ破ったことがない。不思議なもので、ハーヴィーが本当に嫌がっているかどうかをロイクは嗅ぎ分ける。 「まったく、どうせ分かっているのならいちいち確認することもないだろう」 「そうかな。あくまでも僕は君の意見を尊重しようと思っているだけで、君におねだりさせようなんて思ってはいないよ?」 「にやけた顔で言っても説得力などないぞ」 「ははっ、手厳しいね」  腰を抱いた腕が、ロイクが笑うたびに微かに揺れる。それほどまでに近い距離にこの男を置く日が来るなどとは、出会った頃のハーヴィーは予想だにしていなかった。  グラスの中身を飲み干して、ハーヴィーはすぐ間近にある大きな躰へと寄り掛かった。 「クリスマスくらい、あなたを甘やかしてやってもいい」 「君が、プレゼント?」 「リボンで拘束されるのなど御免だ」 「それは残念」  冗談とも本気ともつかぬ口調のロイクをちらりと見遣り、ハーヴィーは寝台の上に大きな躰を押し倒した。抵抗もなく倒れたロイクの碧い瞳が、嬉しそうに見上げてくる。  シャツをはだければ胸元の銃創が嫌でも目に入る。古いものだとロイクは言うが、はっきり残った傷痕は今でも痛々しい。  フレデリックが付けたのだというその傷に、ハーヴィーはそっと唇を寄せた。引き攣れて波打つ皮膚を舌先で辿る。 「ッ、ハ……ヴィー……」  ロイクの大きな躰にあっては、たいした傷ではないのかもしれない。けれど、心臓のすぐ上にあるその傷は、一歩間違えば死んでいてもおかしくないはずだ。 「ねえ、ハーヴィー?」 「何だ」 「もし、君が僕を嫌いになったら、その時はその傷の上からナイフを突き刺してくれる?」 「あなたは、私に人殺しになれと言うのか」  何を馬鹿なことをと、冗談で笑い飛ばすにはあまりにも趣味が悪い。 「死ぬ気はないよ。君が付けた傷を一生胸に抱いて生きていくなんて、ロマンチックだと思わない?」 「思わないな」 「ええ……」  残念だと嘆くロイクをハーヴィーは睨んだ。 「それとも、あなたは私に嫌われたいとでも思っているのか?」 「まさか。君に嫌われたら僕は立ち直れないかもしれない」
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