106人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
Le Japon et la France.
マイケルの運転するGT-Rのテールランプが私道の奥に消えるのを見送って、フレデリックは頭上を見上げた。賑やかな時間が過ぎ、どこか物悲しく感じる瞬間に見上げる星空がフレデリックは好きだ。
フランスに住居を構えた報告がてらのホームパーティーは、アドルフやレティシア、それに義理の兄弟たちを招いての、それはもう賑やかながらも穏やかで平和な時間だった。
ぼんやりと夜空に見惚れていれば、背後から呆れた声が耳に届く。
「いつまでそんなとこに突っ立ってんだ。風邪ひくだろぅが」
「星が、とても綺麗だったから」
言いながら振り返った先には、玄関に飾られたサパン・ド・ノエル(クリスマスツリー)の横で顔を顰める辰巳の姿があった。吐く息が白いのは、寒さのせいでなく手に持った煙草のせいだ。
温暖な気候で知られるニースの冬は、日本ほど寒くない。クリスマス・イブの夜でも二桁を多少下回る程度である。それでも風邪をひくと心配する辰巳へと、フレデリックが飛びついたことは言うまでもなかった。ドンッと勢いよく抱きつく嫁を、顔を顰めながらもしっかりと受け止める優しい旦那様である。
「やっと、ふたりきりだね」
「いつもだろ」
そっけなく言いながらも金色の頭を優しく撫でる辰巳の横顔を、ツリーの纏う光が穏やかに照らしていた。
「良い夜だね」
「そうだな」
どちらともなく足を踏み出し、家の中へと入る。賑やかなパーティーの後片付けは、その殆どをハーヴィーとマイケルが片付けていった。
「少し、庭で飲み直さないかい?」
「ああ」
私道とは反対側にある広い庭。屋外デッキのその先の木々の間には、いつの間にか石畳の小道が設えられた。もちろん犯人はフレデリックだが、ちょっとした散歩をするのに丁度いいと辰巳も気に入っている。
せっかくのクリスマスだからと、イルミネーションに飾られた小道を庭先の屋外デッキから辰巳は眺めた。
「ったく、たかがクリスマスに大仰な奴だよ」
「せっかくキミが戸建てを用意してくれたのに、ホリデーシーズンに庭を飾らないなんて有り得ないよ」
「誰に見せる場所でもねぇだろ」
そもそも建物自体、そこにあると気づく人間の方が少ないだろう。この家は、そう作られている。
最初のコメントを投稿しよう!