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些か不便に感じる狭い私道も、木々が視界を遮っているのも、他の住居から離れた場所にあるのも、全てはフレデリックが安心して住めるように作られている。否、協力を仰いだロイクによれば、フレデリックが安心して敵を迎え撃つ為に、である。
だからといって、フレデリックがひっそりと慎ましやかな生活を送る筈などない事は、煌びやかなイルミネーションを見れば一目瞭然。いくら暗い雑木林が視界を遮ろうともこれでは無駄というものだ。まあ辰巳とて、ひっそりと身を隠して生きようなどとは思わない。ただ少しでも、安寧を得られるのならそれに越したことはないというだけだ。
「僕はキミとふたりきりでクリスマスを満喫したい」
「してやってんだろ?」
「うん。母上に報告も出来たしね」
フランスの、しかも実家からさほど離れていない場所に居を構えておきながら招待のひとつもなしでは確かに不義理というものだろう。丁度いい時期だと辰巳も思う。
だがしかし、フレデリックにかかると何もかもが派手になるのが頭痛の種なのだ。
「だからって業者呼んでまで庭いじるか普通?」
「休日に父親が飾りつけをする家は多いけれど、僕たちにそんな時間はなかったしね」
確かにフレデリックの言う通り、住居と言っても未だ日本に居る時間の方が多いふたりである。辰巳がフランスの家に足を運んだのは、今回が二度目だ。当然フレデリックも同じである。否、だからこそキラキラと輝くイルミネーションが用意されている事に辰巳は驚いた。せめて一言なかったのかと渋い顔をすれば、サプライズだと宣うのだから始末に負えない嫁である。
ともあれ、飾ってあるものをわざわざ外すなどという手間をかけるほど辰巳がマメな性格をしているはずもない。かくして、石造りの屋外デッキで酒を飲みながらクリスマス気分を満喫するというフレデリックの希望は叶えられた。
屋外用のヒーターが稼働しているおかげで、辰巳もフレデリックも薄手の上着を羽織るだけの姿でガーデンソファへと腰を下ろした。
「綺麗だね」
「ああ」
木々の間の小道を彩るイルミネーションもさることながら、いつの間にか庭に植えられたもみの木のツリーが目を惹く。普段東京に暮らす辰巳にとって、この時期のイルミネーションは見慣れたものだが、生のもみの木を使ったツリーはそうお目にかからない。
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