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都会ほど煌びやかでもなく、温かみのあるイルミネーションを眺める。シャンパンは飲み飽きたのか、グリューワインを飲みながらケーキを頬張るフレデリックに視線を奪われた。
それは辰巳にとって、やはりフレデリックが欧米人なのだと実感する瞬間でもある。
見た目はともあれフレデリックは日本の生活にすっかり馴染んでいたし、時折り見せる”外国人らしさ”も然して気にならない程度だ。だが、フランスで生活してみれば辰巳にとって慣れない習慣は多かった。
テーブルを飾るオイルランタンの灯に淡く照らされたフレデリックの横顔は、フランスの土地にあっては自然なものだ。対して自分はどうなのかとふと考える。住む土地が違えば”外国人”なのは辰巳の方だ。
日本では恋人と過ごすことの多いクリスマスだが、フランスではノエルは家族で過ごすのが主流らしい。恋人どころか家族でクリスマスを祝うなどという習慣さえない辰巳にとって、朝から手の込んだ料理を用意し、大勢でパーティーをするなど初めての経験である。
「慣れねぇな」
マトウダイのカルパッチョを摘まみながらぽつりと零れ落ちた辰巳の呟きは、静かな夜にはことのほか大きく響いた。
「辰巳?」
「あ?」
覗き込むフレデリックの顔は不安の色を浮かべていて、辰巳は苦笑を漏らす。普段は我儘放題しているくせに、こういう時ばかりそんな顔をするものだから手に負えない。
「何でもねぇよ」
「気を遣わせてしまった?」
「お前ほどじゃねぇよ」
パーティーに集まった面子を考えれば、辰巳よりもフレデリックの方が気を遣ったことだろう。なにせ今夜は、フレデリックの家族たちが勢ぞろいしていた。当然のようにそれぞれがパートナーを伴っている辺り、少々むさ苦しいパーティーではあったが、それは辰巳も言えた義理ではないだろう。
何よりも辰巳にとって見ものだったのは、フレデリックとロイクの奇妙な空気感である。アドルフはともかくレティシアの前で口喧嘩を始める訳にもいかず、それでもなお些細な牽制をするものだから面白い。
「頑張った僕を褒めてくれるのかな?」
「ま、面白ぇモン見れた礼くらいはしてやるか」
「……キミだって母上の前で居心地悪そうにしていたくせに…」
「ああ?」
しばしの間睨み合い、どちらからともなく吹き出した。静かな庭が俄かに活気を帯びる。
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