L'Italie et la France.

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L'Italie et la France.

 壁に激突するのではないかというスピードで地下駐車場へと滑り込んだGT-Rは、危なげもなくオレンジ色のラインの内側にぴたりとその車体を納めて停止した。未だ腹を震わせる排気音を響かせる車の運転席から降り立った男の名は、マイケルという。 「やれやれ、よくこれで俺の運転が荒いなんて言えるな……」  呆れたように溢しながら助手席から降り立ったのは、もちろんクリストファーだ。ふたりは、ほんの十数分前まで義理の兄が主催のクリスマスパーティーに参加し、帰宅したところである。  隣に停められた白いカマロにちらりと視線を投げながら、マイケルが口を開く。 「荒いというか、どうにもクリスの運転は合わないんだ。仕方がないだろう」  マイケル曰く、運転にはリズムがあるのだという。ステアリングをきるタイミングは勿論、アクセルワークしかり、ブレーキングしかり、そのリズムがクリストファーとは合わないという。  リゾートマンションを一棟丸ごと買い取り、最上階を自宅として使っているクリストファーは、専用のエレベーターへと乗り込んだ。ノンストップで昇るエレベーターのドアは、地下駐車場と最上階のふたつしかない。一般の入居者と顔を合わせる機会はほぼないと言っていい。  エレベーターの扉が閉まる直前、駐車場に響いていた低い排気音はぴたりと止んだ。静まり返ったコンクリートの空間に、扉の閉まる機械音がやけに大きく響くようだった。 「俺からすればお前の運転の方がよっぽど危なっかしい」 「失礼な奴だな。これまで事故を起こしたことなど一度もないぞ」 「俺だってないさ」  事実、マイケルのGT-Rもクリストファーのカマロも、傷ひとつ付いてはいない。それどころか、磨き上げられたボディはまるで鏡のように景色を映す。  少々手狭に感じる箱の中でくだらない遣り取りを繰り広げていれば、エレベーターが動きを止めた。長い廊下に並ぶドアは三つ。手前のドアを素通りしたクリストファーは、中央のドアの前で立ち止まった。  扉に取り付けられた電子キーの蓋を跳ね上げ十三桁の番号を打ち込めば、ガチャリとロックの解かれる音が廊下に重々しく響く。  クリストファーとマイケルの住まう部屋は、白を基調とした明るい色調でまとめられていた。物が少ないせいで少々殺風景に見えなくもないが、置かれた調度品はどれも温かみを感じられるデザインだ。
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