1幕 凄腕のコーチがやってきた!

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 俺たちは高宮コーチと公園で練習をして1か月。  ようやく高校も再開されるようになった。  久しぶりに城伯高等学校(じょうはくこうとうがっこう)へと向かう。  バスケはいいんだけど、学校は面倒だな。また勉強漬けか。 「おはよっ、樹」  美香の声がする。 「ん? あぁ、おはよ……」  俺は美香の挨拶を曖昧に返すと欠伸をした。 「もう、しっかりしろよ!」  美香は俺の背中をおもいっきり叩いた。 「いってぇぇ、なんだよ、美香」  意外と強い衝撃がきた。  格闘家でもやっていたのかよと言いたいところだけど、死んでも言わない。  授業中は暇だった。  眠気がやってくる。  国語の授業中、先生の話は上の空だった。  やばい、もう限界。  ウトウトし始めて、結局、授業中は机に顔を伏せて眠ってしまった。  コツンッ  何かが俺の頭にぶつかった。  周囲を見回すと消しゴムが落ちている。  すぐ斜め後ろにいた美香を横目で睨みつけた。  明らかに美香が消しゴムを投げた。  美香は俺と目が合うとにっこりと笑みを見せた。  チッ。  俺は舌打ちする。  こんなつまらない授業なんてやってられるかよ。  長い授業が終わり、やっと放課後。  放課後になれば目が覚める!  ようやくバスケの時間だ! 「何、急に元気になってるんだよ」  美香は俺の頭を小突いた。 「朝からなんなんだよ、美香」  俺は美香を睨みつけた。 「ったく、あんたの頭の中はバスケしかないのかい」  美香に睨み返される。  うぅ、確かに俺の頭の中にはバスケしかないけれど。  俺はバスケができると、ルンルンで体育館へとやってきた。  同じクラスの慧と美香と一緒に体育館に行けばいいものを、俺の頭の中はバスケしかなくて、慧と美香よりも早く教室を飛び出していた。 「……あいつ、バスケ馬鹿だな」  慧の声が聞こえたような気がするが、俺にはそんなことどうでもよかった。  とにかくバスケだ。バスケ。  体育館に入り、さっさと準備を済ませて、シュートの練習をする。  股関節から曲げる。  俺はグッと股関節を曲げる。  股関節を曲げて、床に力を伝えてジャンプする。  ボールはリングの周りをぐるぐる回ったが、入ることなく落ちた。 「あれっ……なんか感覚が違ったのか?」  俺はしっかりと股関節を曲げて踏み込んだはずだった。  何度も繰り返し、股関節を曲げて踏み込む練習をする。 「その使い方じゃ腕に無駄な力が入って持たないぞ」  俺の背後から高宮コーチの声がする。 「高宮コーチ! こんにちは!」  高宮コーチが来て、はしゃいでいる俺。  それを見ていた慧は、何故か、大笑いしている。 「あっ、樹、腕に無駄な力が入っているって話、全体練習で今日やる予定だからその時な」  高宮コーチに言われて、俺はドキドキが止まらなかった。  無駄な力を使っているってどういうことだろう。  バスケ部全員が集まり、ウォーミングアップをして練習の始まりだ。 「まずは公園でやったやつ、覚えているか? 軸足を準備しておいて、キャッチしてシュート」  軸足をしっかり床につけてから、キャッチ、キャッチしたら股関節を曲げて、グッと耐えるんだったよな。 「それをやってみよう。左右20回ずつ。筋トレのつもりでやろう」  高宮コーチに言われて、全員で左右20回行う。  これは公園で散々やったから、なんとなく慣れてきた。  良い感じ。ただ、股関節だけではダメなのか、シュートは外れまくっている。  左右20回やると、次はもっと応用でも使えるようにフットワークの練習だ。 「これも筋トレのつもりで」  高宮コーチが行うフットワークの練習は。  うわぁぁ、結構きつそうだ。  俺はちょっと逃げ腰になった。 「膝を曲げて胸につけるようにしてジャンプ20回、続けてジャンプしながら、足をグー、ジャンプしてチョキ、ジャンプしてパー、これを1セットで20回」  全部、股関節を曲げて動かせるようにするためらしい。 「グーチョキパージャンプの後はサイドステップ。右にジャンプしたら右足のみで踏ん張る、左にジャンプしたら左足だけで踏ん張る。これを繰り返して20回」  さらに高宮コーチが言った。 「これ全部終わったら、コートの端までダッシュ。疲れてしんどい時にダッシュができるようになる」  げげっ、相当きついメニューだな。これ、まだまだウォーミングアップじゃないか。ウォーミングアップだけで体力消耗しそう。 「これ、全部ひっくるめて1セット。これ、3セットな」  高宮コーチは平然と言った。  なんだって? これを3セット? これはきついフットワークだな。  4人ずつ1列に並んで行う。 「こういうところで準備しないと、バスケでは体力が持たないぞ」  高宮コーチは、このフットワークでもしっかり見ている。 「灯、膝を腿につけてジャンプするとき、背中も丸めよう。バスケでは背中の柔軟性も大事だ」 「はい」  高宮コーチにアドバイスをもらった灯は、返事をして2セット目を待つ。 「達也、ダッシュするときのスタートの時も股関節をしっかり曲げよう」  高宮コーチは微妙なフォームの崩れも見逃していなかった。 「ファイト!! 頑張ろう!!」  美香は大きな声で応援した。  このフットワーク練習は結構きつい。2セットやっただけで汗だくだ。応援してくれなかったら、心が折れる。ありがとう。美香。  俺は美香の声を聞いて、ラスト1セット、フットワークの練習をやった。
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