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大家の娘・結衣は趣味でこの店のボランティア――押しかけアルバイトをやっている。
「おい。――つるすモノが違うぞ」
伊織の不機嫌な声に高い位置で一つに束ねた栗毛を揺らして振り返った。
年齢は十七になったばかりだが、幼稚園の頃から気に入られて店に入り浸っている。
「なに言ってるんですか、これは絶対に必要なものです」
口を尖らせて指先でつついたのは――真っ白なてるてる坊主。
それは一般的な七夕飾りには含まれていない。
色とりどりの短冊が揺れるなかで悪目立ちしている。
「……七夕ってのは願い事を書いた短冊をぶら下げるもんだろ」
顎で示したのはぬるい風に揺れる黄色い短冊。
赤ペンで書かれた願い事は――商売繁盛。
常連客が閑古鳥では繁盛するには相当な努力が必要そうだ。
アンティークショップというおしゃれな名前を掲げていても要は古道具屋。
大した儲けもないのだが祖父の時代からのらりくらりと続いている。
事務所は畳敷きの小あがり、デスクは小ぶりなちゃぶ台。そこに張り付いているのがアフガン犬――ならぬ店主の伊織。
壁沿いに配置された飴色の昭和テイストの茶箪笥に伊万里や有田の絢爛豪華な器が行儀よく並ぶ。BGMは柱時計の淀んだ空気を刻む音。
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