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見る人が見れば宝の山も――店主に商売をする気がなければガラクタ同然。
「神頼みしても……商売する気ないでしょ?」
「社訓は果報は寝て待て、だ」
それで本当に寝ていては世話がない。
結衣は微妙な視線を投げて笹の葉で揺れるバーゲンセールの値札のような短冊を八つ当たりするようにつついた。
「織姫さんだって、いまごろエステ行って、美容室行ってお支度中ですよ」
「行くわけないだろっ」
急須を持ち上げてほとんど色だけの茶を湯呑に流し込んで鼻を鳴らす。
投げやりな声に結衣のこめかみがぴくりと震えた。
「なに言ってるんですかっ、絶賛遠距離恋愛中の二人ですよ。一年に一度しか会えない貴重なデートにおしゃれをしないなんてあり得ません。電話もメールもできないのに会えないなんてかわいそうじゃないですか」
「確かに電波は届かんな」
拳を握って力説する結衣に鼻を鳴らして面倒くさそうに湯呑を持ち上げた。
「恋人と一年ぶりの再会ですよ、きっと感動的でしょうね」
「っていうか一年経ったらいろいろ変わってるかもしれんぞ」
思ったことを正直につぶやいたら、生ぬるくにらまれた。
伊織は困ったことに記憶力は――あまりよい方ではない。
というか、売り物のことは傷の有無まで覚えていても客は覚えない。
要するに興味がなければ記憶に残らないタイプだ。
「――――」
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