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生ぬるい沈黙を追い出すように年代物の柱時計が高らかに時を告げた。
「まあ、雨が降らないでほしいのはうちも一緒だけどな」
ただでさえシャッターの目立つ商店街、雨の日は客足が遠のく。
――てーる、てーる坊主 て~る坊主~ぅ
――あ~した 天気にして~おくれぇ~
妙な節回しの歌声。背筋がムズムズする。
親譲りの音痴は願い事ではなく呪いの呪文のようだ。
「へったくそな歌に怒って雨が降りそうだ……」
ため息混じりにつぶやいて昼飯代わりの湿った煎餅にかじりついた。
※
やっぱり昨日の調子の狂ったメロディがいけなかったのかもしれない。
今朝からどうも雲行きが怪しい。明日は七夕だと言うのに空は白地に灰色の絵の具を流したような――いわゆる曇天。
普段は来客は閑古鳥しかいないはずのアンティークショップ・和に珍しく来客があった。隣町の古物商に紹介されたという三十代とおぼしき女性。
夏色のワンピースに身を包んだ女性は艶のある黒髪と右目の泣き黒子が印象的。
困り顔で差し出したのは――四隅が黄ばんだ古いモノクロ写真。
「この写真の時計を探しているんです」
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