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差し出された年代物のお見合い写真のような和装の女性が映っている。
「時計、ですか?」
時折、伊織の記憶力を当て込んでこういう探し物が舞い込む。
脳内の目録をめくりながら眉根を寄せて目を眇めるが、女性が指示した時計――らしいものは小さくて判別不能。
黒く、丸いデザインは普通のペンダントトップのようにも見えるが、女性は時計だと言った。
(かなり古い写真……撮られたのが昭和の初期だとすると)
「もしかして……懐中時計ですか?」
つぶやいてちゃぶ台の下から拡大鏡を引っ張り出して確認する。
「はい。分かりますか?」
レンズの力で素地の荒い写真の米粒が小豆ぐらいには大きくなった。
「……どうにか。文字盤はアラビア数字のシンプルなもののようですね。舶来品ではなく国産のタイプだと思います。それほど古いものではないので……同じメーカーのものはいくつか在庫がありますね」
伊織の声に女性は笑顔になって安堵の息を漏らす。
ずいと横から写真をのぞき込んだ結衣は首をかしげた。
「これってペンダントじゃなくって懐中時計なんですか? っていうか懐に入ってませんよ」
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