豆狸(『運び屋、はじめました。』余話)

6/8
前へ
/8ページ
次へ
口の中のパイン飴の大きさが、最初の半分程になったところで、めぐちゃんに声を掛ける。 「…めぐちゃんさ」 「…ん…?」 「さっきは、私の何に対してそんなに怒ってたの?」 「……聞いてくれるの?」 「私、さっきそう言ったよ?」 「…飴で誤魔化したのかと思った…」 「それは、…私達二人のどっちに対しても失礼だよ」 「……ごめん」 「…いや、そこは謝るところじゃないと思う」 「でも、…ごめん…」 「……うん、別に気にしてないからいいよ。で、…話戻すけど、めぐちゃんはさっき、私のどこに怒る理由があると思った?」 「…ちーちゃんはさ、竹野内先輩のこと、…それに、私達みんなのことも、全部拒絶してるみたいだったから」 「……拒絶…?」 少なくとも私に取ってそれは、少なからず思いがけない、 そして同時に、充分以上に衝撃的な言葉だった。 まるで、…見えていてもまるで気にしてなかった角度から、抜き打ちに切り掛かられたような。 「うん…。だってちーちゃん、さっき言いかけてたのって、それ、…もしもの時は、自分一人が犠牲になれば、…先輩には、それに…外野にいる私達にもだけど、被害は及ばない、ってことだったんじゃないの?」 図星だった。 自分の喉が、我知らず「ぐぅっ…」という音を立てるのが判る。 「ちーちゃんさ、『自分は、今、特養にいる大伯母さん以外に家族はいないから、もし自分に何かあっても問題はない』とか、本気で思ってない?」 「……どうしてそう思ったの…?」 我ながら情けない事に、何やら声がひび割れ、震えてしまった。 めぐちゃんの顔を、今はまともに見られない。 恐らくめぐちゃんの方は、色白の頬を薄紅く上気させて、 例の大きな目をきっと吊り上げて、私を真っ直ぐに見据えているだろうに。 めぐちゃんの、抑えた口調ながらも、 ワイヤーの切っ先みたいな、ごくきっぱりした声と言葉が私の耳を打った。 「仮にも『小中高通しての相棒』を見損なわないで。 まったく、…ちーちゃんの馬鹿」 めぐちゃんには、今まで随分な回数「馬鹿」と言われているけれども、 今の分は、四半世紀余りの私の個人史の上で、一番堪えた気がする。 「……めぐちゃん、ごめん…」 「…別にいいよ…。でも…それ、本当は私に謝ることじゃないよ?」 「……うん…。でも、…本当にごめん…」 「…だから、……本当にもう…。こんなところで泣いたりしたら、他の人が見るよ、松島部長…。 ほら、…ティッシュ、封切ってないやつ。袋ごとあげるから。私の秘蔵の、高保湿のひりひりしないやつ。特別だよ?」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加