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時ならぬ起床に、大伯母の手を借りた上で、やっとこさ布団に半身を起こしたものの、
拵え事の鶏の鳴き声を聞かされた函谷関の衛士よろしく、
未だ眠りの国の領土の上に、足の爪先を残したまま、
いきなり灯された室内灯の明るさに、思わず目をしょぼしょぼさせる、当時七歳の私に、
大伯母は、
何時になく切迫した、私の起き愚図やらぶうたれやらの類いは一切許さない…と言わんばかりの、
珍しく固い表情と張り詰めた声音とで、
「顔洗いも何もしなくて可いから、とにかく早くお支度なさい」
と、短くそれだけ言って、私を急き立てて着替えをさせ、
着替えを済ませてもまだ寝惚け眼の私と手を繋ぎ、一緒に階下に降りると、
母と、それから私の気に入りで、
私と一緒に買い物に行く度に、決まって母が持ち歩いていた、
生成りのキャンバス地に、黒の線画で親子のペンギンが描かれた、大きめのトートバッグを持ち出して来た。
(今思えば、そのペンギンのトートバッグは、
恐らくは、その前日あたりにでも洗濯したばかりだったのだろう)
それを見咎めた私が
「おーばーちゃん、それ、お母さんの…!」
と、思わず件のトートバッグを指差しながら、抗議と非難の声を上げると、
大伯母は、はっとしたように自分の手に提げているバッグを見て、
何やら…自分が大きな擦過傷を負っていたのを、やっと今になって気が付いた、とでも言うような表情になると、
私と目線を合わせるべく、おもむろに膝を折って屈み込み、
当時、本当にほんの「オチビ」だった私に、真っ直ぐに相対すると、
私の両肩に手を掛け、私の目をじぃっと覗き込んで、
「ちぃちゃん、…これからおーばーちゃんと一緒に、お母さんのところに行くから、
『おーばーちゃんが、間違えてお母さんのバッグ持って来ちゃった』って、一緒にお母さんに謝ってくれる…?」
と、
これも何と言うか、…今思えば、自分の中に荒れ狂う嵐を懸命に抑え付けながらも、
その上で、私にそのことを絶対に悟らせまいとしているかのような、
殊更不自然に穏やかな声と、
七歳の子供の目から見ても、明らかにぎこちない作り笑顔とで訊ねてきた。
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