豆狸(『運び屋、はじめました。』余話)

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「別に、…そりゃ『職業に貴賤無し』とは思ってるけどさ…。あれは…少なくとも、履歴書に堂々と書ける類いの職種じゃないし」 「でもさ、…『お仕事』の間は、ちーちゃん、竹野内先輩と一緒じゃん…」 ああ、そうか、…そういうことか…。 「…別に、…こんなこと言ったら怒られるだろうけど、アレは完全に『押し掛け用心棒』だよ?そりゃ、男手があるのは助かるけどさ…。 でも祥太郎先輩、『たぬき』のアルバイトもちゃんとやってるんでしょ?」 「…うん。 うちのお祖父ちゃんも、お祖母ちゃんもお母さんも、それに私も、すごく助かってる…。 うちの居酒屋、本当に家族経営だから、その…若い男の人がいると、色々と頼もしい、って。 賄いも、先輩は、いつも文句言わないで残さず食べてくれるから、お祖父ちゃん、作る張り合いがあるって言うし、お母さんも見てて気持ちが良いって。 お祖母ちゃんなんか、先輩のこと、若いのにお箸の持ち方が綺麗で、食べ終わった魚の骨に身が残ってない、お店の仕事でも、先輩は行ったり来たり…動線ってことみたいなんだけど、そういう動きに無駄がないし、声も良く通るし、立ち居もきびきびして綺麗だって感心してた。 でも、…これは、本当に例えばの話だけど、 もしもちーちゃんが、一人切りの『お仕事先』でピンチになったりしたら、 竹野内先輩…うちのバイトは放っぽってでも、ちーちゃん助けに行くと思う」 現に以前、自分の無茶で、噂の当人に「助けに(私本人としては「助太刀に」と主張したいところだけれども)」来てもらった「前科」を持つ身としては、 絶対そんなことない…と、否定できないのが辛い。 私達二人の剣道の師・竹野内清太郎氏の御令孫にして、私達の兄弟子、かつ小中高通しての一学年上の先輩で、 現在の私の「運び屋稼業」の用心棒(彼の河内真尋曰く、「雇い主の自分から見れは、下請けのそのまた下の、いわゆる孫請け。旧幕時代で言えば『陪臣、又家来』」)で、 現在、私の眼の前にいる「麗しの萌生姫」の「想い人」でもある竹野内祥太郎氏は、 すぐ下の妹弟子二人(つまり、めぐちゃんと私)に対する責任感が、それはもう強いタイプだ。 (非常に有難いと思う反面、 私は内心で、 あれはもう、ほとんど「庇護欲」と呼んでも差し支えない…と思っている。 何故にそれが、「麗しの萌生姫」への恋愛感情に結び付かないのか、私には心底不思議で仕方がない)
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